投稿

4月, 2012の投稿を表示しています

手術直前に実施したプラークフリー法による食道癌術後肺炎予防の有効性

日本歯科衛生学会雑誌 に「 手術直前に実施した プラークフリー法 による食道癌術後肺炎予防の有効性 」(森川知昭, 木崎久美子, 河田尚子, 花岡宏美 2(2): 43-47, 2008. )が掲載されている。 要旨は「手術後の合併症には種々のものがあるが, 肺炎は最も重篤な合併症のひとつである. 中でも人工呼吸器関連肺炎(ventilator-associated pneumonia;VAP)は致死率が高く, VAPへの対策は大侵襲手術後管理を担うICUにおいてきわめて重要な課題である. VAP予防対策のひとつとして, 米国CDCのガイドラインにおいては, 口腔ケアの重要性が示されている. しかしながら, 経口的に気管内挿管された人工呼吸管理中の患者に対する口腔ケアは, 必ずしも効果的に行われているとは言い難い. その理由はいくつかあり, まずチューブがあるためケアに使用する器具の到達性が悪く, 誤抜管の危険性もあり, 技術的に容易ではない. また, ケア時の出血や, 菌血症が恐れられる傾向にある. さらに, 時間とマンパワーが慢性的に不足しており, 口腔ケアは後回し, あるいは不充分になりがちである. そして, 絶食中であることに加え, 鎮静剤, 利尿剤などの薬剤の副作用で唾液分泌が著明に低下 する. 」と述べている。                    プラークフリー法とは、 歯垢を完全に除去できれば、再形成には 時間を要するため次からの口腔ケア実施時間が短縮できる方法である。そのため、 逆に絶食中でも歯垢が残存していると、 歯垢中の微生物は病原性の高い菌叢へ移行する可能性がある。プラークフリー法は、医科歯科連携において大変有用な方法と思われるが、多くの病院は院内に歯科がないのが現状である。そのため、プラークコントロールを誰が実施するのかが、問題になる。現在スケーリング等予防処置は歯科衛生士が行っているが、病院内では研修を受けた看護師や言語聴覚士が実施できると業務の効率化につながりよいと思われた 。それが難しければ病院内歯科衛生士の配置義務等定めてもよいのではと考えられた。                                           

誤嚥性肺炎パスの有効性の検討

日本クリニカルパス学会誌 に「 包括的かつ個別化介入を主眼とした 誤嚥性肺炎 パスの有効性の検討 」(岡本真紀乃, 荒幡昌久, 森河尚江, 田中正康, 南眞司 14(1): 5-10, 2012. )が掲載されている。 要旨は「高齢者誤嚥性肺炎は, 多様な病態に起因する難治性疾患であり, 肺炎治療のみでは不十分である. 当院では, 2007年に本症に対して「スクリーニングシート」を用いたチームによる包括的かつ個別化された介入を行い, その予後を改善し得た. 検証の結果, (1)患者の問題点を多職種で綿密に把握する, (2)情報を共有して問題点を整理する, (3)重点化した対策を行う, というオーダーメイド的治療(個別化介入)が重要であることが判明した. そして, 2009年にスクリーニングシートを改良し, これを中心とした誤嚥性肺炎パスを作成し, チームによる運用を行ってきた. 今回, 誤嚥性肺炎パスの効果を検証するため, DPC病名が誤嚥性肺炎である当院の入院例110件を対象に, パス使用群(55件)と非使用群(55件)の間で比較検討を行った. 退院時転帰は両群間に有意差はなかったが, パス使用群で在院日数の短縮(25.5±15.2日対37.2±34.2日, P=0.045)と在宅復帰率の改善傾向(96.8%対80.8%, P=0.083)を認めた . また, 入院14日目までの診療報酬点数の検討では, リハビリテーションに係る点数のみがパス使用量で有意に高かったが, 総点数には差がなかった. この結果は, 誤嚥性肺炎の診断直後からパスに従って各職種が効率的に介入し, リハビリテーションをはじめとする個別化介入が奏功したことを反映しており, パスの有効性が証明された .」と述べている。 誤嚥性肺炎パスの検討であり、大変興味深く読むことができた。以前PEG造設パスの文献を参照したことがあるが、リハビリテーション介入を含む誤嚥性肺炎パスの有効性に関する報告はあまり多くない印象である。 着目は、パスの使用による在院日数減少も重要であるが、医師・看護師・セラピスト・栄養士が記載することで、誤嚥性肺炎治療への参加、アプローチを明確にしている点と考える。また、パスの記載内容が多すぎ

摂食・嚥下リハビリテーションへの取り組みの広がり

  歯界展望 に「 摂食・嚥下リハビリテーションへの取り組みの広がり 」(戸原玄 117(1): 148-151, 2011.)が掲載されている。 要旨は、「摂食・嚥下リハビリテーションが医療として取り組まれるようになってからの歴史は, 実はそれほど長いものではありません. 私がこのようなリハビリに取り組み始めたのは10年ほど前ですが, その当時は先進的な病院や, “熱心な”先生が個人で活動をしているというのが実情でした. 専門的な取り組みは“個”の単位であり, またその“個”自体が点在している状況であったといえます. しかし 近年では, 対応すべき患者数の増加に対応するため, 地域医療の現場にも摂食・嚥下リハビリテーションへの取り組みが広がってきています . 今回は, 大学病院や専門的な病院などでの取り組みではなく, 地域における取り組みの広がりなどをいくつか紹介したいと思います.」と述べている。 摂食・嚥下リハビリテーションは、チームアプローチで実施していくため、どの職種が主に何を担当しているかを認知しておく必要がある。当然、担当職種が不在のため実施できないといったものではないが、社会・人的資源として活用できる状態の有無を知っておく必要はあると思われる。 文中では歯科大学卒前教育に摂食嚥下リハビリテーション学を取り入れることを述べている。摂食・嚥下リハビリテーションは嚥下障害、嚥下のメカニズムについて学ぶことは重要であるが、チームへの参加、関わり方を知り実践することも重要と思われた。

NHCAPと歩行能力

日本呼吸器学会雑誌に「 歩行不能な市中肺炎患者は介護医療ケア関連肺炎( NHCAP )として分類すべきである 」(白井佐和, 高瀬直人, 芥川茂, 橋本重樹 49(suppl.1-1): 134-134, 2011. )が掲載されている。 内容は、「医療ケア関連肺炎(HCAP)について,過去の肺炎患者をCAP/HCAPに分類し,その問題点を検討するとともに,介護の必要度による臨床像の差異について比較した.【方法】2009年4月から1年間に当科に肺炎で入院した患者184人をCAP群(125人)とHCAP群(59人)に分類し,ADL,起炎菌,重症度,予後などについて検討した.【結果】CAP/HCAPでの比較では,耐性菌比率,重症度に有意差を認めるものの(p〈0.05),死亡率には差がなかった(p=0.064).在宅で介護を受けている患者の指標に歩行能力を用い歩行不能なCAP群(31人)をHCAP群に加えNHCAP群(90人)として再検討した,その結果,耐性菌比率,重症度,死亡率すべてに有意差を認めた(p<0,05),【結論】 日本における肺炎の新しい概念には,HCAPよりもNHCAPの方が適切と思われ,その指標として歩行能力は有用と考える .」と述べている。 CAPとNHCAPの比較にADL等を使用した報告である。NHCAPに当てはまる患者の多くは誤嚥性肺炎をきたしADLが低下していることが予想される。そのため、NHCAP患者にも摂食嚥下リハビリテーション適応者がいると考えられる。今後、NHCAP患者における誤嚥性肺炎の割合、重症度について検索していきたい。

嚥下障害への対応

日本耳鼻咽喉科学会会報 に 「嚥下障害への対応 」(梅崎俊郎 115(1): 42-45, 2012. )が掲載されている。             要旨は「近年, 嚥下障害はわが国の超高齢化とともに実に多くの診療科が関わるようになり, まさに学際的アプローチを要する疾患の1つと認識されてきた. 耳鼻咽喉科医をはじめとする医科のみならず, 本来口腔ケアや咀嚼・咬合障害を分担すべき歯科医までが参入し, 施設ごとにその役割分担は異なり, 若干の混乱が生じていることも否めない. しかしながら, 嚥下に関わる主な臓器は口腔・咽頭・喉頭・食道であり, 喉頭の気道防御機構を含め嚥下障害はわれわれ耳鼻咽喉科の固有領域の1つであるという事実を再確認し, この病態に対応することが必要である. また, 耳鼻咽喉科・頭頸部外科は嚥下障害の手術治療が可能な唯一の診療科 でもある. 」と述べている。 実際、嚥下障害に関心の高い耳鼻科医がいると、VFやVEを耳鼻科で実施するところが多い。そのため、摂食嚥下リハを進める上では耳鼻科との連携は重要と言える。また、文中で興味深い内容として「気道分離術」について述べており、「顕性誤嚥も不顕性誤嚥も完全に防止する術式であるが,必ずしも経口摂取を約束するものではない」と述べている。誤嚥防止=経口摂食可能ではないことに注目する必要がある。気道分離術の説明を受けた家族は、実施すれば誤嚥が無くなる=経口摂食可能と思いこむ可能性が考えられる。しかし、別物であると説明し理解していただくことが重要であり、示唆に富む一文と思われた。