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胃瘻離脱目的の嚥下リハビリテーション

臨牀と研究 に「 胃瘻離脱を目的とした嚥下リハビリテーションを目指して 」(末廣剛敏, 長村俊志, 川口浩太郎, 山田宏明, 丹生竜太郎, 末廣尚久, 齊藤学, 黒坂升一, 村田慎一, 井上徹英, 松股孝88(6): 746-748, 2011.) が掲載されている。 要旨は「わが国で高齢化が進むにつれ脳卒中や認知症に伴う嚥下障害患者が増加し, 経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)が必要となる症例が増えている. 一方, 言語聴覚士(speech therapist:ST)が中心となった嚥下リハビリテーションが行われるようになり, PEGから離脱できる症例も散見されるようになった. しかし現実では 造設施設と管理施設が異なることが多く, PEG造設後の嚥下リハビリテーションが行われる症例は少ないものと思われる. 今回PEG症例で嚥下リハビリテーションを行い経口摂取可能となった症例より, どのような症例がPEG離脱可能であったかを検討し, PEGと嚥下リハビリテーションの積極的な適応症例を推察した.  『I. 方法』 STへ嚥下リハビリテーションの依頼のあったPEG施行中の15例を対象とし, 経口可能となった経口群8例と経口できなかった経口不能群7例に分け検討し, 経口摂取改善を目的としたPEGの適応について考察した.」と述べている。  PEGに関しては現在、再度議論になっており、文中でも「 現在40万人といわれる胃痩人口は15年後には100万人になると予測されている。実に日本人の100人に一人が胃痩ということになる 」と述べており、この100万人に嚥下リハビリテーションが実施され適切な経口摂食ができなければ、未経口摂食者が100万人になる。これはもう嚥下障害が避けることが不可避な疾患に移行していることを示している。しかし、文中にもある通り「 一番重要なのは本人の食べるという意欲 」であり、セラピストはいかに食べる意欲を持たせられるかといった力量を問われる時代になったと思われる。

頭頸部化学療法に伴う摂食・嚥下障害

日本耳鼻咽喉科学会会報 に「 放射線性 下顎骨壊死 症例の検討 」 (松尾美央, 力丸文秀, 檜垣雄一郎, 冨田吉信 113(12): 907-913, 2010. )が掲載されている。  要旨は「 放射線治療は頭頸部悪性腫瘍の治療 にかかせないが, まれに重篤な局所の障害を起こすことがあり, 放射線性下顎骨壊死 もその一つである. 今回当科における放射線性下顎骨壊死症例を検討したところ, 下顎骨を照射野に含む症例638例中, 骨壊死を来したのは16例2.5%であった. 原発部位別では舌以外の口腔癌が, 線量別では81Gy以上で, 線源別ではX線+電子線で骨壊死が有意に高く発症していた. 発症時期は照射後1年以内の発症が8例と最多で, その後も5年間は骨壊死の発症が認められた. 治療については, 保存的治療での治癒例が44%で, 手術的加療で治癒した例を含めると最終的な治癒率は63%であった. 一方術後病理標本で癌の混在が判明した症例があり全体の25%を占めた. また 保存的加療中や手術的加療後に, 嚥下性肺炎によって死亡した症例が2例存在した. 以上より下顎骨を含む放射線治療では線源と線量に留意し, 骨壊死発症後の治療では癌の混在と嚥下機能障害に注意すべきと思われた. 」と述べている。   ここで考えることとして、放射線性下顎骨壊死を発症すると、口腔期障害を呈すると思われるが、嚥下性肺炎を発症している点である。論文では感染リスクについて触れているが、口腔期障害を呈し、嚥下困難になるとSAriskが高まり容易にaspiration pneumoniaになる。化学療法に伴う摂食嚥下障害(特に誤嚥性肺炎との関連)については、まだ文献検索を行っていないため、今後調べていきたい。        

人工呼吸管理患者のCOMアシスト

埼玉県包括的リハビリテーション研究会雑誌に「 電気式 人工喉頭 の利用がコミュニケーション手段獲得につながった 人工呼吸 器 管理中の重度失語症例 」( 杉本真美, 伊藤智彰, 伊藤淳子, 宮脇智子, 荻野亜希子, 下松智哉, 山本満 10(1): 44-47, 2010.)が掲載されている。  要旨は「AACの使用が困難な人工呼吸器管理中の重度失語症患者1例に電気式人工喉頭(以下電気喉頭)を用いた言語機能訓練を実施し, コミュニケーション能力に改善を認めたので報告する. 症例は, 外傷性くも膜下出血にて入院. C1-2の硬膜下血腫除去術施行, 人工呼吸器管理. 四肢麻痺, 口腔顔面失行, 視覚性注意障害, 重度非流暢性失語を認め, 随意運動は頷きと開閉眼のみであった. 口型表出は内容の推測困難であった為, 電気喉頭で読話を補助し, 言語機能訓練を実施. 口型表出での簡単な意思伝達が可能となり, コミュニケーション意欲も向上した. 人工呼吸器管理中の失語症例でも, 電気喉頭を利用した訓練がコミュニケーション手段の獲得に有用であった. 」と述べている。  人工呼吸に限らず、気管切開部に人工鼻や酸素流入がある場合も音声言語によるCOMは困難である。その際、早期スピーチカニューレに交換すると、予想以上に分泌物が多く結局複管タイプで内筒留置になるケースもある。その場合、話すときだけ、スピーチバルブにして、要件が伝わったら、また内筒を入れる。  電気式人工喉頭は、スピーチカニューレの前段階として、患者の意図が伝達困難時、有効と考えられる。人工喉頭を使用により、ある程度音声として認識できれば、ジェスチャーや文字盤による意図理解よりお互いに満足なCOMにつながる可能性があると思われた。

摂食回復支援食について

日本咀嚼学会雑誌 に「 摂食回復支援用食品米飯と普通米飯がヒトの咀嚼行動に及ぼす影響の比較 」(塩澤光一, 飯田良平, 森戸光彦21(1): 49-56, 2011.)が掲載されている。  要旨は「摂食回復支援食の米飯がヒトの咀嚼行動にいかなる影響を及ぼすかについて調べるために, 健康な10名の被験者 (男性7名, 女性3名, 平均年齢29.7歳)に 摂食回復支援食の米飯(あいーと(R);A試料) と通常の米飯(C試料)を咀嚼させた. 被験者の咬筋から試料咀嚼時の筋電図(EMG)を導出した. 嚥下直前の米飯食塊を回収しそのテクスチャーを解析した. 咀嚼開始期の咬筋EMG振幅はA試料咀嚼のほうがC試料咀嚼に比べて有意に小さな振幅を示した. 嚥下までの咀嚼回数はA試料咀嚼(5.6±2.1回) のほうがC試料咀嚼(29.7±3.8回)に比べて有意に小さな値を示した. 嚥下直前の食塊の硬さは, A試料食塊のほうがC試料食塊に比べて有意に小さな値を示したが, 食塊の付着性と凝集性は両試料食塊間で有意な差は認められなかった. これらの結果から, 摂食回復支援食米飯(A試料)は, 通常の米飯(C試料)に比べて少ない咀嚼回数で嚥下可能な食塊が形成される咀嚼しやすい食品 であることが示された. 」と述べている。  この「あいーと(R)」は私自身夏頃から知ったが、見た目は常食であるが、試食した際すぐ口腔内でばらけ嚥下しやすく驚いた記憶がある。最近になり、医師の間でも浸透してきたらしく摂食嚥下困難者のカルテに「あいーと(R)を勧める」といった記載が散見されている。  この文献でも述べているが摂食嚥下リハ困難さの一つに食事形態がある。嚥下機能と食事形態意欲に乖離があると拒食になることが多い。経口摂食レベルの嚥下機能は残存しているが、拒食から低栄養になり経管栄養や輸液管理になることがある。  少しでも食事形態による拒食を改善するため金銭的に可能な範囲(あいーと(R)は値が張る)で摂食回復支援食を勧めたいと思う。

言語聴覚士の呼吸リハビリ考察

昨日、本日と チームCE研究会 講習会に参加した。  呼吸療法認定士の単位講習になっていることもあり、参加職種は看護師、理学療法士、臨床工学技士が多かった。内容は「血液ガスと酸塩基平衡」、「呼吸療法における画像診断のコツ」や「呼吸ケアサポートチームにおける栄養管理の基礎と運営」等、臨床で役立つ内容であった。  参加して考えさせられたこととして、何度も繰り返すが言語聴覚士は呼吸器、栄養について学ぶ機会がほとんどない。しかし、入職すると嚥下障害をみる機会が高次脳機能よりも多い病院が多いと思う。これは、高齢化に伴う誤嚥性肺炎増加による影響が大きいと言える。  そうなると嚥下障害を担当する言語聴覚士は呼吸器、栄養に関する知識を覚えることは必須となる。呼吸理学療法を学習することで、摂食時の誤嚥を予防する姿勢調整が可能となり、結果として誤嚥性肺炎予防に役立つ。特に理学療法士取得後、頭頸部だけでなく、姿勢による影響を考慮した呼吸リハ的(あくまで的)アプローチも実践してきた。  「嚥下障害」、「誤嚥性肺炎」、「栄養」。今後、この3つを結びつけたリハビリテーションに関する研究を実践していきたい。

高齢で嚥下障害のある患者における栄養経路の決定

心身医学 に「 高齢で 嚥下障害 のある患者における 栄養 経路の決定に関する臨床倫理的検討 」 (鈴木智, 中野弘一, 坪井康次, 筒井末春51(7): 650-658, 2011.) が掲載されている。 要旨は「医療行為を行うかどうかの決断において, 多くの医師は決断の中で臨床倫理的検討をしているが, 記述のフォームや習慣がなく, それを記載していない. 医学を医療に適応させるだけでなく, 心理, 社会面に対してさまざまな配慮をし, 患者の改善を目指しているという医療の多面性を伝えるためにも, 臨床倫理学的な検討をし, 倫理学的用語を用いて記載することは今後の医療の中で必要となろう.   この研究の目的は, 嚥下障害のある高齢者の栄養経路選択における臨床倫理的問題を抽出することである. このため, われわれは高齢の嚥下障害のある2症例に対しJonsenらによる症例検討シートを作り, 検討を行った. 治療方針は症例1では経鼻経管栄養を, 症例2では経口摂取を選択した. 2例とも意思決定能力はないと判断し近親者を代理として相談した. 代理の決断が自己決定によるように配慮した. 方針の決定に際し, 代理は決断に責任を感じていることなどが判明した .」と述べている。  この論文でのポイントは「臨床倫理的検討の結論はその医療行為をやっていいか,悪いかを決めるということではなく,意思決断に至る過程で自律的決断をするために選択しやすい説明をしたり, 家族の感じている重圧感に配慮しつつよいコミュニケーションを目指すといった配慮をしてきたかというプロセスが重要 であるという印象を得た.」という内容と思う。  栄養管理について、急性期であれば経口・EN・PPNといった方法があり主治医が適切な方法を選択するが、経口摂食困難患者の御家族に対し経口摂食困難理由を見聞することがある。その際、セラピストは主治医とともに経口摂食困難患者の御家族意思決定過程負担を少しでも軽減する協力体制が求められると改めて考えさせられた。

骨棘と嚥下障害2

JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATIONに「 頸椎/頸髄病変と 嚥下障害 」( 藤島一郎, 佐藤友里, 橋本育子17(12): 1187-1193, 2008.)が掲載されている。  要旨は「頸椎の前には嚥下で大変重要な役割をする咽頭がある. 頸椎の疾患や加齢変化で骨棘や前縦靱帯の骨化, alignmentの異常などが生じると嚥下の咽頭期に障害をきたしうる . 一方, 頚髄の病変が直接嚥下障害を起こすことはないが, 呼吸筋の麻痺などで嚥下と関連が深い呼吸機能の低下を生じる. また, 頸髄病変はしばしば延髄病変と関連があり, 延髄が原因の嚥下障害を伴うことがある. さらに, 高齢者では多発性脳血管疾患による潜在的嚥下障害があり, これが頚椎頸髄病変によって顕在化してくることがある. 」と述べている。  嚥下スクリーニングではわかりにくい骨棘による通過障害にも触れており、「 骨棘はtraction spursやclaw spondylophytesとよばれ椎体辺縁が鳥のくちばし状に飛び出るもので上下椎体の骨 棘は癒合しない .先に述べた頸椎弓縦靱帯骨化症でみられる骨棘は上下椎体のものが骨化癒合 してmarginal syndesmophytesやnon marginalsyndesmophytesとよばれる.」  また、「VFVEは大変有力な情報を提供し,呼吸器合併症を未然に防ぎながら安全な経口摂取につなげることに役立つ.」と述べており、特に骨棘については、VFVEがないと適切なリハビリテーションが難しいと考えられる。  VFVEが実施できない状況での骨棘の判断は、本人自覚や頚部の固さから判断し、疑ったら回旋嚥下を実施することである程度の判断は可能と思われる。

Neurological Signs in Relation to Type of Cerebrovascular Disease in Vascular Dementia

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Stroke に「 Neurological Signs in Relation to Type of Cerebrovascular Disease in Vascular Dementia 」(Salka S. Staekenborg ; Wiesje M. van der Flier ; Elisabeth C.W. van Straaten, ;Roger Lane; Frederik Barkhof; Philip Scheltens, 2008; 39: 317-322)が掲載されている。 (論文free) 要旨は 「 Background and Purpose— The aim of this study was to describe the prevalence of a number of neurological signs in a large population of patients with vascular dementia (VaD) and to compare the relative frequency of specific neurological signs dependent on type of cerebrovascular disease. Methods— Seven hundred six patients with VaD (NINDS-AIREN) were included from a large multicenter clinical trial (registration number NCT00099216 ). At baseline neurological examination, the presence of 16 neurological signs was assessed. Based on MRI, patients were classified as having large vessel VaD (18%; large territorial or strategical infarcts on MRI), small vessel VaD (74%; white matter hyperintensities [WMH], multiple l

嚥下障害と誤嚥性肺炎

医歯薬出版 より「 誤嚥性肺炎- 抗菌薬だけに頼らない肺炎治療 」(藤谷順子・鳥羽研二編著)が出版されている。  序文で「誤嚥性肺炎は,症状が非定型的で,発熱,気道症状がないことがある一方,予後が不良である.したがって, 誤嚥性肺炎を生じやすい嚥下障害を早期に検出し,摂食・嚥下リハビリテーションや誤嚥対策を行うことが,高齢者肺炎の予防・治療の点から重要と考えられる .誤嚥の正確な評価については,嚥下造影が現状のゴールデンスタンダードであり,その後の治療方針の決定のために有用である.しかし,高齢者では,多数例が誤嚥リスクを有すると考えられ,これら全員に嚥下造影を行うことは,時間,労働力,医療費の諸点で無駄が大きい.現段階で,多数例の高齢者に実施可能な有用な嚥下スクリーニング方法は確立されていない.」と述べている。  最後に「 本書が, 嚥下障害のチーム医療には熱心だが,一旦肺炎を起こすと内科,呼吸器科,老年科などに任せきりにしている嚥下訓練関係者 や,嚥下障害は医師の関わることではないと誤解している多くの臓器別医師への啓蒙の一書になれば幸いである.」と述べ嚥下障害への関心を高める啓発をしている。  ここから考えられることとして、病院に入院する高齢者は誤嚥性肺炎リスクが高いということである。極論をすれば入院高齢者は最初は他疾患で入院しても入院中に誤嚥性肺炎を起こすと疑って発症前から摂食嚥下リハビリテーションや運動アプローチを実施することが求められるのではないかと思う。  もちろん入院患者全員にアプローチすることはマンパワーの面で無理があるため、病棟看護師やNSTと連携し高齢者の誤嚥性肺炎予防が重要なことを知識のある先生方が啓発することが大切と考える。  いずれ私自身も自己研鑽を積み啓蒙の一書の一端になりたいと思う。