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Review of ‘Sick House Syndrome’

環境が患者に与える影響について考えていたところ以下の論文があった。 日本衛生学雑誌 に「 シックハウス症候群に係わる医学的知見の整理 」(関 明彦, 瀧川智子, 岸 玲子, 坂部 貢, 鳥居新平, 田中正敏, 吉村健清, 森本兼曩, 加藤貴彦, 吉良尚平, 相澤好治, 62(4) : 939-948, 2007.)が掲載されている。 内容は「I. 緒言 1990年代後半から, 居住環境中の空気質悪化に起因する健康障害, いわゆる「シックハウス症候群」(Sick House Syndrome;SHS)が社会問題となってきている. これに対して, 当時の厚生省が研究班を組織し, その原因究明と対策方法の検討を行ってきたのをはじめとして, 様々な角度からの調査, 研究が行われ, 今日までに数多くの研究結果が報告されている. また, 日本衛生学会からも「シックハウス症候群に関する見解」が示されている. しかし, SHSの研究についてはさまざまな分野の学会, 研究者が関与していることもあって, 体系的に研究が実施され, その成果も体系的に取りまとめられているとは必ずしも言いがたい. 何をもってSHSとするかの診断基準が研究者により異なっていたり, 発症原因としての化学物質や生物学的要因の検査方法が研究により異なっていたりするなど, 研究手法が必ずしも確立されているとはいえない. また, SHSの病態や原因, 診断, 治療に関しても, 個別には多くの知見が得られているが, 医学的知見を総合的に評価した報告は少なく, 一定の見解が得られているとは言えない.」と述べている。  著者らはSHSの原因に 化学的要因(ホルムアルデヒドやトルエン等) と 生物学的要因(カビやダニ等) を挙げている。 他にも 物理的要因(温度、湿度) があり、これらが複合的に影響しSHSを引き起こす。  私達セラピストはリハビリテーション室や言語聴覚療法室でリハビリテーションを実施する機会が多いが、環境として安全かと問われると分からない部分が多い。また、リハビリテーション室のみならず、病院全体も同様である。病院環境が与えるSHS影響の研究をいずれresearchしたい。

摂食嚥下の社会的ニーズ

九州歯科学会雑誌 に「 社会的ニーズに対応した歯科保健医療教育プログラム開発のための調査研究 」(井上博雅, 吉野賢一, 久保田浩三, 辻澤利行, 園木一男, 吉田成美, 高見佳代子, 粟野秀慈, 仲西修, 柿木保明, 西原達次,  63(5/6) : 277-290, 2010)が掲載されている。 要旨は、「 医療現場における口腔ケアと摂食・嚥下リハビリテーション(以下, 摂食嚥下リハ)の現状と課題を把握し, この分野で貢献するべき人材を育成するための教育プログラムを構築することを視野に入れ, アンケート調査を実施した. 調査は平成18年(以下, 今回)に, 福岡県内の病院, 高齢者・障害者施設(以下, 施設)および歯科医院を対象として行われた. 必要に応じて平成16年(以下, 前回)に病院と施設において実施された同様の調査と比較, 検討した. 今回の調査では病院と保健施設の, それぞれ95.1%, 94.9%が口腔ケアを, 73.2%, 23.3%が摂食嚥下リハを実施していると回答した. また, 前回の調査と比べ, 口腔ケア担当者の職種として第一位は看護師であったがその割合は減少し, より口腔領域の専門性が高い歯科医師, 歯科衛生士, 言語聴覚士などの割合が増加していた. 一方, 摂食嚥下リハにおいては, より多くの医療職が関与して実施されているとの回答が得られた. この結果は, 摂食嚥下リハにおけるチーム医療によって実施されていることを反映したものと考えられた. 口腔ケアおよび摂食嚥下リハに携わる人材には, 「口腔機能管理における専門的知識と技術」と「高齢者に対する知識や介護技術」, ついで「栄養学的知識の習得」の知識と技術が求められた. 高齢社会に対応できる口腔保健の専門家が求められると同時に, チーム医療, とくに栄養補給チームの一員として貢献できる人材が求められていると考えられた. 以上のことから, 口腔ケアと摂食嚥下リハを担当する口腔保健の専門家(とくに歯科衛生士)には, 口腔機能管理における専門的知識と技術のみならず, 社会的ニーズに伴う高齢者に対する知識や技術, 他の医療職との連携がさらに重要になる将来的医療環境に対応できる知識(とくに栄養学的知識)を習得させる教育プログラムが必要であると考えられた.」 と述べている。  アンケートの項目で「

摂食・嚥下障害スクリーニング

老年精神医学雑誌 に「 加齢性変化と摂食・嚥下機能の評価 」(弘中祥司, 20(12) : 1352-1362, 2009)が掲載されている。 要旨は「認知症患者の多くは, 病態の本質として先行期障害をもっているが, 同時に高齢者に発症することから, 認知症の特徴だけではなく, 摂食・嚥下器官の加齢変化について同時に考慮しなければならない. 摂食・嚥下機能の評価には, 多くの検査とスクリーニング方法がこれまでに存在するが, 患者の協力性を考慮しつつ, 正確な評価のためには, そのうちのいくつかを組み合わせて正しく評価することが重要である.」とあり、 摂食・嚥下器官の加齢変化 として 口腔・顎 では多数歯の欠如 、咀直筋の筋力低下、舌,舌筋の下垂、口輪筋,頬筋の筋力低下、口腔内感覚閾値の上昇、口腔粘膜の変化、唾液分泌量の減少、顎関節の異常、顎・舌の不随意運動(オーラルジスキネジアの出現)を挙げている。 咽頭・喉頭 では、咽頭括約筋機能不全、喉頭の下垂、喉頭・舌骨の挙上減少 、喉頭の閉鎖不全である。 食道 では食道入口部の開大不全を挙げている。 本内容のメインは嚥下スクリーニングの紹介と引用文献が記載されている。市販のテキストと重複する部分もあるが、摂食・嚥下に携わる方であれば、知っておくべき内容である。同じ検査でも指導教官によっては、若干違う内容になることも少なくない。出典を知ることで、検査の標準化を知ることができる。私にとって大変有用な文献であったと思う。

Diagnosis and Management of Oropharyngeal Dysphagia and Its Nutritional and Respiratory Complications in the Elderly(高齢嚥下障害者の栄養・呼吸器合併診断とマネージメント)

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  Gastroenterology Research and Practice  Volume 2011, (Laia Rofes,Viridiana Arreola, Jordi Almirall, Mateu Cabré, Lluís Campins, Pilar García-Peris, Renée Speyer, and Pere Clavé) に高齢嚥下障害者の栄養と呼吸状態について掲載されている。調査では高齢者の30%が嚥下障害を呈しており、約半分は不顕性誤嚥である。また、45%は咽頭残留を認め嚥下障害患者の55%が栄養低下を示していると述べている。 Abstract  Oropharyngeal dysphagia is a major complaint among older people. Dysphagia may cause two types of complications in these patients: (a) a decrease in the efficacy of deglutition leading to malnutrition and dehydration, (b) a decrease in deglutition safety, leading to tracheobronchial aspiration which results in aspiration pneumonia and can lead to death. Clinical screening methods should be used to identify older people with oropharyngeal dysphagia and to identify those patients who are at risk of aspiration. Videofluoroscopy (VFS) is the gold standard to study the oral and pharyngeal mechanisms of dysphagia in older patients. Up to 30% of older patients with dysphagia present aspiration—half of

摂食嚥下リハビリテーションと舌診

医道の日本 に「 舌診で何がわかるの? 」(丸山彰貞, 68(1) : 226-231, 2009)が掲載されている。 舌診については以前触れたが、この文献では舌面から読み取れる5つのことを列記している。 Ⅰ臓腋気血の盛衰をみるⅡ法高の深浅を弁別するⅢ病邪の性質を区別するⅣ病勢の進退を予測するⅤ疾病の予後を判断する 。である。 また、筆者は「初学者は、まず舌苔を先に見るとわかりやすいでしょう。 苔の有無、厚薄、色沢、湿潤、腐賦 などの状況を観察します。 舌の先端から開始し、舌の中部、根部へと進めます 。次に 舌質 の観察をします。 筋肉の色沢、形状、動きなどをみていきます 。舌尖より舌の両側に沿って舌根に至るように、もし舌苔が厚くないときは、苔の下の色沢と形態をあわせて観察していきます。」と述べている。  具体的事例として、「患者は20歳で、小児糖尿病の疾患を持っていました。飲食ごとに血糖値を自ら測定し、医師の許可のもとにインシュリンを注射して自己管理をしていました。最近、残念ながら亡くなられました。糖尿病の舌象は体調によって異なりますが、一般的に舌質紅、苔薄白で干、後期は苔黄にして干あるいは焦黄、あるいは舌質紅にして無苔です。この写真の患者は、前期の症状で舌質紅、苔薄白ですが、やや黄色みをおびて干の状態を示しています。さらに歯根、舌中央に列紋も見られます。虚熱の症状と脾気の機能の低下、胃の機能の低下、心肝の火がやや旺盛な状態が認められます。この当時身体に大きくストレスがかかっていたことがうかがえます。」  と述べている。今回の事例は糖尿病であるが、糖尿病に限らず摂食・嚥下障害を呈している患者は舌苔付着例が多い。今回の文献から摂食嚥下リハビリテーションを進める際、観察所見で舌苔の有無だけでなく、色、厚さを観察し日々の体調の変化を捉えることで摂食嚥下リハビリテーションへの参考になると考えられた。

摂食嚥下障害と舌診

小児口腔外科 に「 口腔ケアの実際 」 ( 柿木保明, 20(1) : 65, 2010)が掲載されている。 要旨は「口腔ケアは, 従来, 口腔清拭や口腔清掃と考えられてきたが, 近年では, 単なる清掃ではなく, 口腔の疾患予防, 口腔環境および口腔機能の正常化, 口腔の健康増進, 摂食嚥下機能を含んだリハビリテーションにより, QOLの向上に寄与するものといえる.  口腔細菌数の減少や口腔乾燥の改善, 嚥下機能の改善にも有用であり, 誤嚥性肺炎の予防にとっても, 重要な意味をもつ. とくに, 口腔が乾燥していると, 口腔内が汚れやすくなり, また, 唾液の粘性亢進は, 粘膜の感覚を低下させるために, 唾液嚥下の回数減少や誤嚥を生じやすくなることから, 注意が必要である.  口腔乾燥のために自浄作用が低下して口腔粘膜が正常な状態と異なっている患者では, 通常の口腔ケアでは改善効果が少ないことがある. 口腔が乾燥している患者では, 唾液や粘膜, 細菌学的な観点からも配慮しながら実施することが必要で, これに口腔機能の向上を加味して行う.   口腔ケアの方法は, 口腔粘膜の状態や, 唾液の状態, 嚥下機能の程度などに応じて選択する. すなわち, 口腔水分計や唾液湿潤度検査紙などを用いた客観的評価により, 粘膜保湿が必要と判断されれば, 保湿成分を含有した洗口剤やジェル製品を用いた粘膜保湿ケアを行う.   これらの客観的評価は, 多職種における情報共有には有効である. また, 唾液低下による口腔機能障害や嚥下障害の改善も重要で, 舌の体操や唾液腺マッサージなども考慮する. 全身的には, 人工唾液の応用や唾液分泌改善薬の使用, 漢方薬の使用, 口呼吸に対する対応, 生活習慣や生活の背景などに対する指導などをあわせて考慮する. 口腔ケア時の観察では, とくに舌の観察が全身状態を推察するのに有効である. 舌診 とよばれる手法であるが, 体質の傾向が理解できることから, 口腔ケアにも活かせる. 」  とあり舌診は主に東洋医学で用いられており、観察ポイントは ①舌の色調,②舌の形状,③舌苔の状態,および④舌の動き である。  口腔ケアは誤嚥性肺炎予防に効果があることは理解していたが、舌診に関しては理解が乏しく、口腔内所見も口腔内乾燥や舌苔の有無程度しか理解していなかっ

嚥下に関する神経

音声言語医学に「 神経機序からみた嚥下とその病態 」(進武幹, 41(4) : 320-329, 2000)が掲載されている。 要約は「咽頭期嚥下の神経機序は嚥下の惹起に必須である咽喉頭粘膜の知覚受容給血は自由神経終末,味蕾,数珠状神経終末が広く分布し,これらの神経の起源は上喉頭神経および舌咽神経である.これらの両神経の中枢投射は延髄の弧束核の間質亜核に収束されている.咽頭期嚥下は反射性に惹起されるが,これらは延髄のパターン形成により制御され,嚥下関連ニューロンは 弧束核 のtypeⅠニューロン, 小細胞性網様体 のtypeⅡニューロン, 疑核 のtypeⅢニューロンに 分類された.神経機序からみた嚥下障害の病態は皮質延髄路の障害による嚥下惹起遅延型,脳幹の障害すなわち嚥下のパターン形成障害による嚥下停滞型,咽頭期嚥下惹起不全型に分類し病態について考察を加えた.」  いくつかのポイントは本文で述べられているが一つピックアップした。  「咽喉頭粘膜に分布する神経終末には形態的および機能的性質によりいくつかの異なるタイプに分類され,それらのもつ機能にふさわしい形態をとり嚥下や気道防御反射に合目的な分布様式をもっている.これらの 神経の起源 は舌咽神経および迷走神経から分枝した 上喉頭神経下枝 および 迷走神経の咽頭枝の知覚神経終末 が部位によって異なった密度で広く分布する.これらの終末が食塊などにより刺激されるとこの知覚情報は延髄弧束核に伝達され脳幹から末梢へと反射回路を形成している.」  とあり、逆にいえば、上喉頭神経や迷走神経の知覚が障害されると嚥下をしても感覚低下から惹起遅延を引き起こす可能性があることである。嚥下評価では、喉頭挙上や舌骨の動きに注目しがちであるが、食塊通過の感覚も確認する必要があることを考えさせられた。  

呼気筋トレーニングと摂食・嚥下リハビリテーション

理学療法科学 に「 吹矢を用いたトレーニングが呼吸機能に及ぼす影響 ―呼気筋トレーニングとの比較― 」(永崎孝之, 岡田裕隆, 甲斐悟, 高橋精一郎, 25(6) : 867-871, 2010)が掲載されている。 要旨は「吹矢トレーニングが呼吸機能に及ぼす影響を呼気筋トレーニングと比較して,検討することである。〔対象〕健常者19名。〔方法〕無作為に吹矢群10名と、呼気筋トレーニング群(呼気筋群)9名の2群に分け,吹矢群には吹矢トレーニング,呼気筋群には スレショルドPEP を用いた呼気抵抗:負荷トレーニングを実施し,呼吸機能の肺活量,努力性肺活量,一秒量,一秒率,呼気最大流速(PEF),呼気最大口.腔内圧(PEmax),吸気最大口腔内圧を測定し,各群内および壁間で比較した〔結果〕吹矢群はPEF,PEmaxの数値が増加し統計学的有意差を認めた。その他の呼吸機能は差を認めなかった。呼気.筋群はPEF,PEmaxの数値は増加したものの統計学的有意差を認めな かった。その他の呼吸機能についても差を認めなかった。また吹矢群と呼気筋群の呼吸機能の比較おいては統計学的有意差を認めなかった。〔結語〕吹矢トレーニングはPEF,PEmaxを増加させ,呼気筋トレーニングと同様の影響を呼吸機能に与えることが示唆された。」 と述べている。普段呼吸リハと言えば、どちらかと言えば Threshold IMTを用いて吸気筋を鍛えることが多い。   Threshold PEPを用いた摂食・嚥下リハビリテーション報告は少ないが、喀痰や咳嗽に応用すれば、誤嚥リスク予防効果を期待できるかもしれないと考えられる。

咳テストと摂食嚥下障害

日本摂食嚥下リハビリテーション学会誌に「 不顕性誤嚥のスクリーニング検査における咳テストの有用性に関する検討 」(若杉葉子, 戸原玄, 中根綾子, 後藤志乃, 大内ゆかり, 三串伸哉, 竹内周平, 高島真穂, 都島千明, 千葉由美, 植松宏2(2):109-117,2008)が掲載されている。  要旨は「現在行われている多くのスクリーニングテストは誤嚥のスクリーニングテストであり,不顕性誤嚥(SA)をスクリーニングするこどは難しいとされている.今回,我々はクエン酸の吸入による咳テストを用いたSAのスクリーニングの有用性について検討を行った.   対象 は何らかの摂食・嚥下障害が疑われた18歳から100歳までの患者204名(男性131名,女性73名,平均年齢69.90±11.70歳).超音波ネブライザより1.0重量%クエン酸生理食塩水溶液を経口より吸入させ,1分間での咳の回数を数える.5回以上であれば陰性(正常),4回以下であれば陽性(SA疑い)と判定し,VFもしくはVEの結果を基準とし,SAのスクリーニングの感度,特異度,有効度陽性反応的中度,陰性反応的中度を計算した.  咳テストによるSAのスクリーニングの結果は, 感度0.87,特異度0.89 ,有効度0.89,陽性反応的中度0.74,陰性反応的中度0.95であった.次いで主要な原疾患別に咳テストの有用性を検討した. 脳血管障害患者 におけるSAのスクリーニングの結果は, 感度0.76,特異度0.82 ,有効度0.79,陽性反応的中度0.73,陰性反応的中度0.84であった. 頭頚部腫瘍患者 におけるSAのスクリーニングの結果は, 感度1.00 , 特異度0.97 ,有効度0.98,陽性反応的中度0.93,陰性反応的中度1.00であった. 神経筋疾患患者 におけるSAのスクリーニングの結果は, 感度0.83,特異度0.84 ,有効度0.84,陽性反応的中度0.56,陰性反応的中度0.95であった. 呼吸器疾患患者 におけるSAのスクリーニングの結果は, 感度0.67,特異度0.81 ,有効度0.76,陽性反応的中度0.67,陰性反応的中度0.81であった. 気管切開のある患者 におけるSAのスクリーニングの結果は, 感度0.71,特異度1.00 ,有効度0.78,陽性反応的中度1.00,陰性反応的中度0.5

dysarthriaに対するfacilitation効果

音声言語医学 に「 構音器官の運動性から考えるその評価法と新しいDysarthria治療の可能性 」 (三枝英人, 48(3) : 231-236, 2007)が掲載されている。 要約は「現在のところ,すべての運動障害性構音障害(以下,dysarthria)に対して有効な構 音訓練法はいまだに確立されていないというのが実情である.一方,嚥下障害の患者に対して, 構音訓練を行うと嚥下が改善するといったことがしばしば経験される.このことから, ある同 じ器官を使用する別の反射性運動を誘発することで障害された機能が促通 されうるということ が示唆される.また,構音運動そのものに反射性制御機構が存在するならば,それを誘発する ことでより有効な機能訓練が行える可能性が高い.今後,そういった観点も含めたdysarthria, 構音機能,構音器官に対する臨床的および基礎的な研究が必要である.」  文中で「舌根の高さにおいて横舌筋が上咽頭収縮筋・舌咽頭部と太い筋線維をもって 連続し,リング状の形態を呈している.上咽頭収縮筋と椎体前面との癒合は比較的強いので,リング状の筋肉が収縮することで,舌が後方に移動し,同時に咽頭の収縮が起こる. 舌前方運動は,オトガイ舌筋の舌根へ向かう筋線維の筋活動が主体 となる.両者は,舌根付近で両筋の筋線維間に存在する筋紡錘により,互いに拮抗的に,また反射性に制御されうる.」と述べ姿勢による発音の比較をし、「 母音/a/発声時には後屈位で有意にオトガイ舌筋の筋活動が増強し,母音/i/発声時では前屈位になると両者の筋活動が有意に減少 することが判明した」と述べている。  筆者はdysarthriaに対し姿勢による構音変化や咀嚼運動における舌と下顎の反射性運動等の存在を報告することにより、より解剖生理学的なアプローチの展開を述べている。  dysarthriaに対しつい障害されている発音や構音器官のみを対象にアプローチしているが、もっと広い視野からアプローチする必要性を感じた。

舌癌と摂食嚥下障害

日本口腔科学会雑誌 に「 舌癌切除後の口腔機能に関する臨床的検討 」(金城亜紀, 大部一成, 白砂兼光, 55(3) : 153-161, 2006)が掲載されている。 内容は「口腔癌の治療成績は著しく向上しており,当施設における口腔癌患者の5年生存率は80%を上回るようになってきている。ゆえに今日の口腔癌治療は延命を目的とするのみならず,患者のQuality of Life(QOL)を十分に考慮したものへと進歩している。特に口腔癌の治療においては手術を主体とするため,術後の口腔機能の重要性がクローズアップされるようになってきた。このような背景から最近多くの施設で術後の口腔機能を積極的に評価している。   しかしその基準や評価法については確立されていない。 今回われわれは2002年から2005年までに当科にて切除を行った舌癌症例のうち術前術後にわたり経時的に口腔機能を評価しえた症例を分析した。また症状が固定したと考えられる術後1年以上経過した症例について患者へのアンケートを行い,患者の満足度を把握するのと同時に客観的評価との関連性を検討した。」  と述べ、機能評価については1舌運動機能2口腔機能全般3嚥下機能について評価している。   1舌運動機能 、松永らによる舌運動機能評価法を用いた。 2口腔機能 、口腔機能全般に関してはRogersらによる評価方法、 3嚥下機能 窪田らによる30ml水飲みテスト,才藤らによる反復唾液嚥下テスト,嚥下造影(VF)検査によって嚥下機能を評価した。結論は、「本研究により切除範囲に応じた口腔機能低下から回復に至るまでの詳細な過程が明らかとなった。本研究に用いた機能検査のうち 反復唾液嚥下テスト以外の検査は,舌癌切除症例の機能検査法として有用であった。」 と述べており、舌癌の評価は口腔期から咽頭期まで全般に評価が必要な旨が示されている。  今回、舌癌をテーマにしたもので嚥下評価に関する報告は多いが、嚥下リハを実施した報告は少ない。舌癌への嚥下リハ報告が多く望まれる。

防災士とセラピスト

日本集団災害医学会誌 に「 災害時派遣医療チーム(DMAT)を中心とした地域災害医療体制充実への取り組み 」 (武山佳洋, 小出明知, 沢本圭悟, 米田斉史, 河瀬亨哉, 益子健, 11(2) : 145, 2006)が掲載されている。 内容は、「【はじめに】当院は北海道南部, 南渡島地域の災害拠点病院として日本DMAT講習会に参加した. 講習受講者を中心とした, 地域における災害医療体制の充実に向けた取り組みを紹介する. 【方法, 結果】当院救命救急センター医師と看護師, 事務員が講習会を受講した. 看護師は独自に防災士の資格を取得し, 院内で災害勉強会を開催するほか, 市民に対する啓蒙活動を行っている. 医師は函館市地域防災計画の修正を働き掛け, 市内における災害発生時にDMATの出動が可能となるよう調整中である. また担当メディカルコントロール(MC)圏域においてトリアージや災害医療に関する研修会を開催している. 今後は院内災害訓練を企画・実施し, DMAT受講者の効率的運用が可能となるよう, 院内マニュアルを改訂する予定である. 院外においては, 市総合防災訓練への参加や市消防局との合同訓練開催を検討中である. 【まとめ】講習会参加は, 受講者の危機意識やモチベーションの向上に役立った. DMATは全国規模の災害における運用を想定し養成が進められているが, その実践的な教育内容から, 地域災害医療体制においても啓蒙活動を含めた有効活用が期待される. 国の防災基本計画の修正に伴い, 北海道地域防災計画も修正されDMATの役割が位置づけられた. 当院の所属する道南圏の災害医療体制の充実に向け, 他の災害拠点病院との連携も模索しながら, 今後も活動を続けていきたい. 」と述べている。  今回の東日本大震災でもDMATが出動したが、基本的にリハビリテーション職種がDMATで派遣される例は少ない。そのため、私自身、直接震災場所へ派遣がなくても、何か災害医療に役立てられるものはないか探していたところ、 防災士 があり昨年取得した。現在、防災士取得により災害医療に直結しているかと言えば違うが、カリキュラムにハザードマップを作成する講義があり、大変参考になった。もし現地に行くことになった際、あらかじめ地形や避難場所の構造を知り適切な避難体制をとることで、被災者を

パーキンソン病患者の舌運動緩慢による食物輸送

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dysphagiaに「 Impaired Food Transportation in Parkinson’s Disease Related to Lingual Bradykinesia 」(George Umemoto, Yoshio Tsuboi, Akio Kitashima, Hirokazu Furuya and Toshihiro Kikuta,2010)が掲載されている。 Abstract   This study aimed to analyze quantitatively videofluoroscopic (VF) images of patients with Parkinson’s disease (PD), to evaluate if the predicted factors of the oral phase of swallowing deteriorated with PD progression, and to demonstrate a relationship between the abnormal movements of the tongue and food transportation. Thirty PD patients were recruited and divided into mild/moderate (Hoehn & Yahr stages II and III) and advanced (stages IV and V) groups. They underwent measurement of tongue strength and VF using 5 ml of barium gelatin jelly as a test food. We measured the speed of bolus movement and the range of tongue and mandible movements during oropharyngeal transit time. The maximum tongue pressure of the mild/moderate group was significantly larger than that of advanc

体重減少症例とその要因

日本病態栄養学会誌 に「 栄養療法開始後も体重減少を認めたParkinson病の1例 」(丸田恭子, 藤原彰, 園田至人, 福永秀敏, 13(3) : 233-238, 2010)が掲載されている。 要旨は以下の通りである。  「Parkinson病患者に体重減少が多いことは従来から知られている。我々は栄養療法開始後も体重が減少した1症例について検討した。症例は84歳男性。81歳時にParkinson病と診断され治療を開始された。転倒し、右肋骨骨折と右血胸を生じたため、2007年4月に本院呼吸器外科に入院した。入院時体重は59.3kg。その後神経内科に転科していたが、9月に体重が49.8kgと減少したため栄養サポートチーム(nutrition support team;NST)による栄養療法を開始した。Hoehnand Yahr stage V度、嚥下障害はない。食事摂取エネルギーは充足していたが、介入1カ月後に48.9kgになったことから、摂取エネルギーを増量した。さらに翌年1月には46.2kgまで減少したが、3月以降、体重減少は停止した。血清アルブミン、総コレステロール、中性脂肪値は保たれている。本症例における体重減少は 筋固縮の増強に関連したエネルギー消費の増大によるもの と 推察された。」 と述べられている。論文上ではPD患者の体重減少の要因として27論文を掲載しており、一方の仮設に対しての反論を述べている。多くの論文では体脂肪が減少するとの報告であり、原因としては、不随意運動に伴うエネルギー消費を挙げている。  また、PD患者では嚥下障害も発生しやすく、口腔から咽頭期にかけて嚥下障害が発生する論文もある。摂食嚥下障害に携わる人としては、体重減少というとすぐ誤嚥の影響と考えがちであるが、今回の論文で述べているようにあらゆる方向性から原因を考えることを再度認識する必要性を感じた。

糖尿病とリハビリテーション

臨床研修プラクティス に「 いざという時にケトアシドーシスが起こったら 」 (廣峰義久, 池上博司, 5(3) : 71-73, 2008)が掲載されている。 記載内容として「糖尿病合併症には,長年にわたる慢性の高血糖の結果起こる慢性合併症と,インスリン作用不足が高度になって起こる急性の合併症がある。糖尿病ケトアシドーシスは急性の合併症であり、対応を誤ると生命にかかわるため,早急かつ的確な診断・加療が求められる」と述べられている。  また、「DKAは,インスリン作用不足によって起こり,高血糖・アシドーシス・ケトーシスを3主徴としており、症状は意識障害:昏睡まで意識障害は様々、呼吸異常:呼気のケトン臭・クスマウル大呼吸消化器症状:嘔吐・腹痛、脱水症状:皮膚ツルゴール低下・粘膜乾燥・頻脈・低血圧で死亡率は5%以下と報告」とある。  個人的に重要なのは研修医向けの言葉であり、「 糖尿病はどの科にも潜在的に潜んでいるものであるので注意 」と述べている。実際この言葉通りリハビリテーションを担当すると、糖尿病患者は多くの科にまたがっている。そのため、今回述べられているケトアシドーシスを発症する患者もないとは言えない。当然のことであるが、セラピストは常時、全身状態観察に留意する必要があると考えられた。

急性期における嚥下スクリーニング

日本摂食・嚥下リハビリテーション学会雑誌 に「 急性期病院における嚥下障害患者の予後予測 ―初回スクリーニング検査からみた帰結と不顕性誤嚥の検討 」 (前田葉子, 柴田斉子, 符田かおり, 菅俊光, 吉田清和, 14(3) : 191-200, 2010)が掲載されている。 「要旨 【 目的 】急性期病院における嚥下障害患者の初回嚥下スクリーニング検査から経口摂取の帰結が予測できるか否かを検討した.また,スクリーニング検査では見落としが問題とされる不顕性誤嚥(以下SA)についても考察を加えた. 【 対象と方法 】対象は,2 年間に言語聴覚士(以下ST)が嚥下リハを施行し初回評価時に反復唾液嚥下テスト(以下RSST)と改訂水飲みテスト(以下MWST)を行った入院患者314 名(平均年齢67.1 歳).ST介入終了時の栄養摂取方法から,経口摂取確立群と補助栄養群の2 群に分け,初回RSST 回数と初回MWST点数より経口摂取の帰結を調べた.また,開始時意識レベル,嚥下造影検査(以下VF)結果,嚥下内視鏡検査(以下VE)結果,顕性誤嚥およびSA の有無,気管切開の有無,臨床的重症度分類の変化について,カルテより後方視的に調べた. 【 結果 】経口摂取確立群は187 名(59.6%),補助栄養群は127 名(40.4%)であった.経口摂取確立群は年齢が若く,開始時に意識清明である者が多かった.RSST 3 回以上かつMWST 3 点以上の患者の87.9% が経口摂取を確立することができた.しかし,MWST 実施者中4 点の7.5%,5 点の6.8% にSA の見落としが生じていた.SA 患者の疾患・病態には仮性球麻痺,開胸術後,頭頸部癌化学放射線治療後,脳幹病変,神経変性疾患,皮膚筋炎等があり,ST 介入前の肺炎発症例25 名,反回神経麻痺例14 名,気管切開例16名が含まれていた. 【 考察 】急性期病院の限られた入院日数の中では,適切な予後予測に基づいた効率的な嚥下リハの提供が不可欠である.RSST およびMWST は嚥下障害のスクリーニングに有効とされるが,経口摂取確立の予後予測にも有用であることがわかった.しかし,スクリーニングに際しては,SA の見落としに十分注意を払い,SA を起こしうる疾患や病態にはVF・VE で精査を行う必要がある.」  実際現場で

根拠のある嚥下リハビリテーション

日本耳鼻咽喉科学会会報 に「  嚥下障害の保存的治療-根拠のある嚥下リハビリテーションの実践を目指して 」(大前由紀雄, 114(2) : 66-71, 2011)が掲載されている。  内容は、「嚥下リハは,主として代償法を用いた摂食訓練を通じて効果を上げており、他方では嚥下の生理学に基づいて運動負荷をかけることで嚥下機能の改善を目指したいくつかの訓練法が報告されている。その効果に対する検証も蓄積されつつあるが、嚥下リハが必ずしも医学的根拠をもって選択し実践されているとは言い難い」と述べており、効果的な嚥下リハを実施するためには,嚥下障害の病態を把握し適切な対処法を選択することが不可欠である。と述べている。  具体的に間接訓練では  ①障害された嚥下運動の改善や代償運動の補強  ②嚥下反射の促通  ③嚥下動作の協調性の回復  ④気道防御反射の強化 を目指すこととし直接訓練では開始する判断基準を掲載している。  ①意識障害がJCS(japan coma scale)で1桁台  ②摂食に対する意欲がある  ③全身状態が安定している  ④姿勢の保持が可能である  ⑤嚥下反射が惹起する  ⑥口腔期 咽頭期 食道期の運動出力が生じる  ⑦反射的あるいは随意的な咳漱反射がある 他にもあるが、嚥下リハは根拠が少ないのが現状であるが、まず誤嚥リスクを軽減したアプローチを実施し訓練の根拠を形成していく地道な方法がベストではないかと思われた。

理学療法士、言語聴覚士国家試験と社会福祉分野

厚生労働省HPに 第46回理学療法士国家試験 と 第13回言語聴覚士国家試験 の合格率が掲載されている。 合格率 理学療法士74.3% 言語聴覚士69.3% となっており、理学療法士は約20%近く合格率が下がり、言語聴覚士は約5%増加している。単純に数字比較はできないが、セラピスト(特に理学療法士)は急増しており、国家試験による抑制が始まっている印象を受ける。 実際に学生に教えた経験があるが、学生が苦手とする分野は 社会福祉関係分野 であることが多い。理由の一つとして範囲の割に問題数が少ない(時間対効果が低い)ことが挙げられると思う。 万が一今年度不合格になってしまった方がいて、特に 社会福祉関係分野(他の科目でも可) を学びたい方がいたら、再度掲載するが、ぜひ家庭教師を活用して欲しいと思う。早期にできるだけ一人でも多くのセラピストが増えることを願ってやまない。

IC法と嚥下リハビリテーション

  Geriatric Medicine に「 非経口栄養のマネジメント 」(瀬田拓, 佐藤舞,48(12) : 1669-1673, 2010)が 掲載されている。  内容として、「誤嚥性肺炎の治療は,①炎症の鎮静化,②炎症の原因除去,③組織の修復,④機能(呼吸,気道防御,嚥下)の修復を図ることにより進められるが,栄養療法が果たす役割は大きい.また,肺炎の改善と同時に経口摂取の再開が検討されるが,すぐに再開することが困難と判断された場合には,非経口栄養法による栄養管理が必要となる.」から述べられている。  他に「誤嚥性肺炎急性期の非経口栄養管理」と「 嚥下リ八中の短期的な非経口栄養管理 」について述べられており、特に後者は「1週間程度で十分量の経口摂取が可能になると推測されるなら,PPNの継続でよいと考える」から「最近は,PPNでもある程度の栄養が投与できる製剤が開発されたので,PPNの選択がしやすくなった」と展開している.  この後も、「しかし,嚥下リハに1カ月程度の期間が必要と見込まれる場合は,十分な栄養投与ができる経路が必須である」とあり、「NGチューブを留置するのであれば,できるだけ細い(8Fr以下)チューブを選ぶと,嚥下への影響は少ないといわれている.また, IC法は有効で,チューブフリーの状態で嚥下訓練が可能であるだけでなく,様々な効果が期待されている 」と述べている。  IC法については賛否両論あることを筆者らも述べているが、私もN-Gチューブをしながら歩行訓練する場面をみると、せめて訓練中は抜管できればと思う。今後のIC法適応について考えさせられた。