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超高齢社会における誤嚥性肺炎の予防と治療

日本臨床内科医会会誌に「 超高齢社会における誤嚥性肺炎の予防と治療 」(寺本信嗣29(4): 525-529, 2014. )が掲載されている。 要旨は「過去20年間肺炎死亡者数は増加し続け, 全死亡原因の第3位になった. しかし, 抗菌薬をはじめとして肺炎治療は進歩しており, 肺炎診療の質の低下が死者を増やしているわけではない. これは, 誤嚥性肺炎という高齢者肺炎が増えているためであり, 特に80歳以降の高齢者肺炎の死亡率が高いためである. 誤嚥性肺炎は, 市中肺炎(CAP)と院内肺炎(HAP)のそれぞれに含まれる. われわれの成績では, 入院CAPの6割, HAPの8割以上が誤嚥性肺炎 であり, 入院肺炎症例では, ほとんどが誤嚥性肺炎である. そこで, 誤嚥性肺炎の予防と治療を進めることが, 肺炎診療の中心的な課題になってきた. 誤嚥性肺炎の病因は, 嚥下障害による不顕性誤嚥であるため, 夜間嚥下反射が低下する時間にリスクが高まる. つまり, 誤嚥性肺炎は夜作られる. 」と述べている。 今回内容で関心を惹きつけられたのはインフルエンザワクチン接種の勧めである。 文献中でも「インフルエンザウイルスによる誤嚥性肺炎は理論上存在しないが,インフルエンザウイルス感染後は,全身 怠を生じ,誤嚥も増加する.」と述べている。 肺炎球菌ワクチン接種の勧めはよく述べられているが、インフルエンザとの関連は大変参考になった。

歯科とリハビリの臨床実習の違い

早いもので歯学部に入学してから3年が経過した。 臨床実習も半年経過し、あと半年もすると引き継ぎが始まる。  歯学科の臨床実習は、これまで経験してきたリハビリの臨床実習と違い、毎日登校するものの一日中バイザーに付きっきりという訳ではなく、概ね半日(1日)見学、診療補助等を経験し日によっては、自習の日もある。  また、専門科をローテートするのも特色である。思えば、リハビリの臨床実習で「今日は嚥下専門のST」、「今日は高次脳機能専門のST」ということはなく、ずっと担当バイザーのもとで臨床実習が行われる。  提出課題についても歯学科臨床実習では、レポートを1週間以内に提出といった形態が多く、リハビリ臨床実習で聞かれる「翌日までのレポート提出で夜眠れない」といったことは無い。  歯科とリハビリでは修業年数の違いもあるのだろうが、リハビリにおいてもゆとりのある、臨床実習を模索していくことで、学生が考える機会を増やし国家試験にもつながる臨床実習ができるとのではと考えられた。

感染症対策としての口腔ケアを考える

難病と在宅ケア に「 感染症対策としての口腔ケアを考える 」 (渡邊裕 20(6): 53-56, 2014.)が掲載されている。 要旨は「2012年の日本の総死亡者数は約120万人で, うち65歳以上の高齢者の死亡者数は約100万人, 総死亡者数に占める65歳以上の高齢者の割合は8割以上となっている. 一方, 肺炎のよる死亡者数は全死亡者の1割の約12万人で, うち96.8%が65歳以上の高齢者となっている. 日本の高齢者の肺炎の80%以上が誤嚥性肺炎との報告から推計すると, 65歳以上の高齢者の約1割は誤嚥性肺炎で死亡しているということになる. 誤嚥 とは, 病原性微生物を含む唾液などの口腔・咽頭内容物, 食物, まれに胃内容物を気道内に吸引することで生じる肺炎を誤嚥性肺炎という. 誤嚥性肺炎の多くは, 不顕性誤嚥(無意識のうちに細菌を含む口腔・咽頭分泌物を微量に誤嚥する現象)による 細菌性肺炎 である. 不顕性誤嚥の危険因子としては大脳基底核の脳血管障害, 神経筋疾患および認知症などの脳疾患, 寝たきり状態, 口腔内不衛生, 胃食道逆流, 抗精神病薬の多剤使用などが挙げられる. 」と述べている。 文中に「歯や補綴物の観察では、動揺が無くても、歯の頸部(歯肉に近い部分)に大きなう蝕がある場合、ケア中にう蝕の部分で破折し、歯冠部(歯の頭の部分)が脱落、誤嚥する可能性がある。さらに大きな歯冠補綴物(クラウンやブリッジなど)の場合、歯が金属に覆われおり、中の状況が判別できず、動揺など前触れもなく脱落することもあり、これら大きな歯冠補綴物には十分な注意が必要であり、可能な限り歯科専門職の診査を受けるべきである。」と述べている。 これまで、言語聴覚士として勤務していた時は、歯の動揺については、「揺れているな」としか感じていなかったが、歯学部に通い歯の動揺度があることを知り、また歯周検査も行うようになった。 ベッドサイドでの歯科職種による口腔内スクリーニングは口腔ケアを実施していくうえで必要になるであろうし、誤嚥予防アプローチの幅が広がる可能性につながると思われた。

経管栄養患者の発熱および肺炎の予防法

医療 に「 経管栄養患者の発熱および肺炎の予防法 - 歯磨きおよびリハビリテーションの追加の効果 -」(及川隆司, 松坂薫, 大井敦子, 田畑恵太, 清水綾子, 沼田恵, 近江谷留里子, 久保裕司, 山谷睦雄)68(6): 281-290, 2014.が掲載されている。 要旨は「高齢者では脳血管疾患などにともなう嚥下機能の低下により誤嚥性肺炎を生じやすい. また, 経管栄養を受けている患者では日常生活動作(activities of daily living : ADL)の低下にともない口腔内の衛生環境が悪化する. このため, 細菌を多く含む唾液を誤嚥する場合に肺炎を生じる. 誤嚥性肺炎の予防には嚥下改善をもたらす薬剤の内服や, 看護・介護による口腔内衛生環境改善などの方法が開発されている. しかし, 経管栄養を受けている患者 に生じる誤嚥性肺炎の予防法は確立していない. 筆者らは, 寝たきり状態で, 嚥下機能および認知機能の低下を認め, 経管栄養を受けている患者に対し, 看護師による 1日1回5分間の歯磨きと , 筋力維持および関節拘縮防止のための リハビリテーション を新規ケアとして加え, 唾液や喀痰の吸引, 食後の座位保持, 体位変換, 尿道カテーテル交換などのケアとともに実施し, 発熱回数 および 肺炎回数の減少を認めた . リハビリテーションは関節の拘縮を防ぎ, 看護師によるケアを受けやすくさせる効果を認めた. これらの患者ケアの方法には口腔内分泌物に混入している細菌の誤嚥によってもたらされる肺炎を防ぐ効果があると示唆される. これまでの知見をもとに, 高齢者肺炎および経管栄養を受けている患者の肺炎発症の機序と予防法を紹介する. 」と述べている。 この文献で興味深い箇所は、口腔ケア群とコントロール群を設けているところである。 コントロール群の設定について、文献では「歯ブラシによる口腔ケアとリハビリテーションを実施していなかった時期に入院していた患者」とある。 これまで、口腔ケアの効果については、Yoneyamaらの論文が有名であるが、今回の論文はさらに口腔ケアの効果を比較した論文として要考察していく必要があると思われた。

誤嚥性肺炎治療にメチレンブルーが有効

Journal of Surgical Research (IF2.121)に「The effect of methylene blue treatment on aspiration pneumonia」 (Mehmet Kanter , Sevtap Hekimoglu Sahin, Umit Nusret Basaran, Suleyman Ayvaz, Burhan Aksu, Mustafa Erboga, Alkin Colak Volume 193, Issue 2, February 2015, Pages 909–919)が掲載されている。   Background The study aimed to examine whether methylene blue (MB) prevents different pulmonary aspiration materials-induced lung injury in rats. Methods The experiments were designed in 60 Sprague–Dawley rats, ranging in weight from 250–300 g, randomly allotted into one of six groups ( n = 10): saline control, Biosorb Energy Plus (BIO), hydrochloric acid (HCl), saline + MB treated, BIO + MB treated, and HCl + MB treated. Saline, BIO, and HCl were injected into the lungs in a volume of 2 mL/kg. After surgical procedure, MB was administered intraperitoneally for 7 days at a daily dose of 2 mg/kg per day. Seven days later, rats were killed, and both lungs in all groups were examined bioch...

認知症高齢者の摂食・嚥下障害

老年精神医学雑誌 に「認知症高齢者の摂食・ 嚥下障害」( 枝広あや子 25: 117-122, 2014.)が掲載されている。 要旨は「高齢者の摂食・嚥下障害については脳血管障害後遺症をベースに対応法が確立されつつあるが, 認知症に対しては対応法が確立されていなかった. これまでの調査における実態把握により, アルツハイマー病(AD)の摂食・嚥下障害では"広義の嚥下障害"を引き起こす要因に着目する必要性が確認された. ADの摂食・嚥下障害には「身体機能障害」に加え, 認知症特有 の「 環境との関係性の障害 」が関係していると考えられる.」と述べている。 認知症の摂食嚥下障害というと、まず嚥下機能よりも拒食、一口量の増加、集中力の低下といった摂食環境の乱れがイメージとして出てくる。また、集中して摂食嚥下リハビリテーションを実施することは難しいため、スプーンの調整による一口量の調整や拒食に対しては代替栄養など環境調整が大事になってくる。 本文中にある、「認知症の方の食支援マニュアル」は認知症の食事への対処方法がわからない方へアプローチを示唆してくれるよいものと思う。 高齢化社会に伴い、認知症高齢者による摂食嚥下障害は増加することが予想されるため、研究の進展に期待していきたい。

嚥下機能と体力関連の検討

嚥下医学 に「 嚥下機能と体力関連の検討 」 (西山耕一郎, 杉本良介, 戎本浩史, 大田隆之, 酒井昭博, 永井浩巳, 粉川将治, 廣瀬裕介, 河合敏, 足立徹也, 大上研二, 折舘伸彦, 飯田政弘, 廣瀬肇 3(1): 67-74, 2014.)が掲載されている。 要旨は「嚥下機能は全身状態に大きく左右される. 嚥下機能が低下してくると誤嚥を生じ, 誤嚥を繰り返して肺炎になる. 嚥下機能と呼吸機能と体力と肺炎との関連性について検討した. 西山耳鼻咽喉科医院を嚥下障害にて受診した62例を誤嚥あり群と誤嚥なし群に分類し, 呼吸機能として一回呼気流量と, 体力の指標として握力を測定し, 肺炎症状等を調べた. 誤嚥あり例は33例, 誤嚥なし例は29例であった. 誤嚥あり群の一回呼気流量は132.4±66.7 L/minで, 誤嚥なし群の一回呼気流量は218.1±73.8 L/minで, 誤嚥あり群は有意に(p<0.05)少なかった. 誤嚥あり群の握力は15.6±5.4 kgであり, 誤嚥なし群の握力は21.9±7.2 kgで, 誤嚥あり群は有意に(p<0.05)低かった. 誤嚥あり群のCRP値は, 誤嚥なし群に比べて有意に高かった. 末梢白血球数, BMI値, 血清アルブミン値は, 誤嚥あり群と誤嚥なし群の有意差は認められなかった. 誤嚥あり群は, 痰咳の症状例, 36.7度以上の微熱例, 杖歩行例が多かった. 以上の結果より 嚥下機能 は, 呼吸機能, 体力(握力), 炎症症状と関係 することが推察された. 」と述べている。 本文中で「嚥下性肺炎発症のリスクは,誤嚥の有無だけでなく咳の最大呼気流速(peak cough flow:PCF)も関係し,咳噺やハフィングは術後の気道内分泌物の喀出と肺合併症を予防するために非常に重要」とあり、嚥下障害により誤嚥したとしても、喀出能力を高めることで、誤嚥性肺炎を防止できると考えることができる。エビデンスに乏しい摂食嚥下リハビリテーションであるが、嚥下障害を直接改善するためにアプローチする直接、間接訓練と誤嚥性肺炎を予防するために行う訓練を普段の摂食嚥下リハビリテーションに組み合わせて行うことが、エビデンス構築に役立つのではないかと思われた。...