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認知症高齢者の摂食・嚥下障害

老年精神医学雑誌 に「認知症高齢者の摂食・ 嚥下障害」( 枝広あや子 25: 117-122, 2014.)が掲載されている。 要旨は「高齢者の摂食・嚥下障害については脳血管障害後遺症をベースに対応法が確立されつつあるが, 認知症に対しては対応法が確立されていなかった. これまでの調査における実態把握により, アルツハイマー病(AD)の摂食・嚥下障害では"広義の嚥下障害"を引き起こす要因に着目する必要性が確認された. ADの摂食・嚥下障害には「身体機能障害」に加え, 認知症特有 の「 環境との関係性の障害 」が関係していると考えられる.」と述べている。 認知症の摂食嚥下障害というと、まず嚥下機能よりも拒食、一口量の増加、集中力の低下といった摂食環境の乱れがイメージとして出てくる。また、集中して摂食嚥下リハビリテーションを実施することは難しいため、スプーンの調整による一口量の調整や拒食に対しては代替栄養など環境調整が大事になってくる。 本文中にある、「認知症の方の食支援マニュアル」は認知症の食事への対処方法がわからない方へアプローチを示唆してくれるよいものと思う。 高齢化社会に伴い、認知症高齢者による摂食嚥下障害は増加することが予想されるため、研究の進展に期待していきたい。

嚥下機能と体力関連の検討

嚥下医学 に「 嚥下機能と体力関連の検討 」 (西山耕一郎, 杉本良介, 戎本浩史, 大田隆之, 酒井昭博, 永井浩巳, 粉川将治, 廣瀬裕介, 河合敏, 足立徹也, 大上研二, 折舘伸彦, 飯田政弘, 廣瀬肇 3(1): 67-74, 2014.)が掲載されている。 要旨は「嚥下機能は全身状態に大きく左右される. 嚥下機能が低下してくると誤嚥を生じ, 誤嚥を繰り返して肺炎になる. 嚥下機能と呼吸機能と体力と肺炎との関連性について検討した. 西山耳鼻咽喉科医院を嚥下障害にて受診した62例を誤嚥あり群と誤嚥なし群に分類し, 呼吸機能として一回呼気流量と, 体力の指標として握力を測定し, 肺炎症状等を調べた. 誤嚥あり例は33例, 誤嚥なし例は29例であった. 誤嚥あり群の一回呼気流量は132.4±66.7 L/minで, 誤嚥なし群の一回呼気流量は218.1±73.8 L/minで, 誤嚥あり群は有意に(p<0.05)少なかった. 誤嚥あり群の握力は15.6±5.4 kgであり, 誤嚥なし群の握力は21.9±7.2 kgで, 誤嚥あり群は有意に(p<0.05)低かった. 誤嚥あり群のCRP値は, 誤嚥なし群に比べて有意に高かった. 末梢白血球数, BMI値, 血清アルブミン値は, 誤嚥あり群と誤嚥なし群の有意差は認められなかった. 誤嚥あり群は, 痰咳の症状例, 36.7度以上の微熱例, 杖歩行例が多かった. 以上の結果より 嚥下機能 は, 呼吸機能, 体力(握力), 炎症症状と関係 することが推察された. 」と述べている。 本文中で「嚥下性肺炎発症のリスクは,誤嚥の有無だけでなく咳の最大呼気流速(peak cough flow:PCF)も関係し,咳噺やハフィングは術後の気道内分泌物の喀出と肺合併症を予防するために非常に重要」とあり、嚥下障害により誤嚥したとしても、喀出能力を高めることで、誤嚥性肺炎を防止できると考えることができる。エビデンスに乏しい摂食嚥下リハビリテーションであるが、嚥下障害を直接改善するためにアプローチする直接、間接訓練と誤嚥性肺炎を予防するために行う訓練を普段の摂食嚥下リハビリテーションに組み合わせて行うことが、エビデンス構築に役立つのではないかと思われた。...

嚥下障害のリハビリテーション - 病態別対応の重要性について -

音声言語医学に「 嚥下障害 のリハビリテーション - 病態別対応の重要性について -」 (木村幸, 巨島文子 音声言語医学 55(4): 277-283, 2014.)が掲載されている。 要旨は「 嚥下障害の原因疾患は脳卒中, パーキンソン病や頭頸部腫瘍術後など, 多岐にわたる. 嚥下障害の病態を正確に評価し, 原因疾患に適した治療を選択して, リハビリテーションなどの治療をチームで施行する必要がある. また, 症例によっては治療を一施設のみで完結することはできないため, 摂食・嚥下障害者を取り巻く関連施設や関連職種などとの 地域連携が必要 である. 本論文では, 当院での摂食・嚥下リハビリテーションの病態別対応と地域連携の実践を脳卒中, パーキンソン病の慢性期重度嚥下障害3例を提示して紹介する.」と述べている。 1症例目は右被殻出血、2症例目は右橋・延髄・小脳の脳梗塞、3症例目はパーキンソン病であり、いずれの症例も重度嚥下障害を呈しているため、チームアプローチによる嚥下障害改善を目指している。 嚥下障害の治療において、本文では「嚥下障害の訓練はエビデンスが乏しいため,病態に即した訓練や治療を本人・家族の同意を得たうえで実施する必要がある.」と述べている。 病態に即した訓練を行うためには、医師と嚥下訓練実施者の共通の理解、意思の疎通が重要になる。そのためには、嚥下訓練内容も重要であるが、意思の疎通を図るためのコミュニケーション能力も大事であると思われる。

肺炎にさせないために

デンタルハイジーンに「 肺炎にさせない"ために~嚥下訓練・食事支援・口腔ケア~ 」(野原幹司33(9): 978-982, 2013.)が掲載されている。  要旨は「医療界では, 在宅医療の充実が叫ばれています. 病院に入院すべき急性疾患を有する患者さんは減少し, 慢性疾患や障害を抱えながら在宅や施設で生活している患者さんが増えているためです. 患者さんの生活を支える在宅医療のさらなる充実が必要とされています. ここに在宅主治医(医科)を対象にした「連携したい診療科」のアンケート結果があります. なんと, 在宅医がもっとも連携したいのは「歯科」という結果でした . さらにもう1つ, 「歯科に口腔ケアを依頼したときに期待する効果」についてアンケートがあります. その結果の1位は「摂食・嚥下機能の維持・改善」であり, 2位は「呼吸器感染(肺炎)の予防」でした. これらの結果は, 「在宅でもっとも必要とされているのは歯科であり, そのときに期待されるのは, 摂食・嚥下リハビリテーション(以下, 嚥下リハ)と口腔ケアである」ということです. 」と述べている。 本文でこれからの歯科について、「歯を残す」から「機能障害への対応」へパラダイムシフトをしていると述べている。 また、本文では栄養と呼吸リハについて、触れており私も栄養、呼吸リハ、口腔ケアを適切に組み合わせることで嚥下性肺炎を予防できると考えている。 そのため、歯科衛生士雑誌に呼吸リハについて述べられていたことは大変興味深かった。歯科関係者が誤嚥性肺炎予防のために口腔以外も観察できるとアプローチの幅が広がると思われた。

段階的嚥下食と誤嚥防止のための口腔ケア

難病と在宅ケア に「 段階的嚥下食と誤嚥防止のための口腔ケア 」(中山渕利, 戸原玄, 阿部仁子20(1): 63-66, 2014.)が掲載されている。 要旨は「近年, 摂食・嚥下障害を抱えた要介護者が増えるなかで, 安全でおいしい食事を提供するために在宅や介護施設にて食事形態や食事方法について様々な工夫がなされている. しかしながら, すべての 摂食・嚥下障害者が適切な食事をしているわけではない . 実際, 摂食・嚥下機能に不釣り合いな食事は誤嚥性肺炎や窒息を引き起こすこともある. また食事方法を工夫すれば口から食べられるが胃瘻のみで栄養摂取を続けている場合もある. 摂食・嚥下障害者が安全に経口摂取を継続するためには, 食形態, 姿勢, 食べ方もしくは食べさせ方を適正にすることが大切 である. つまり, 人によっては食形態がいくら適正でも姿勢が悪いと誤嚥することや, 食形態が不適切でも姿勢や食べさせ方が適切であれば誤嚥しない場合もある. 今回はこのうち"食形態"に着目して解説していることに注意していただければ幸いである. 」と述べている。 主に日本摂食嚥下リハビリテーション学会の嚥下調整食分類と口腔ケアについて記載されているが、嚥下調整食分類について、具体的な食品が記載されており分かりやすい内容となっている。 例えば、「あい一とR」について、「食材の形態はそのままに、酵素均浸法を使って、食材の内部繊維を分解しており、舌で簡単につぶせて、コード3に相当する程度まで粒のない状態になるため、コード3の中でも比較的安全でおいしい商品である。」と述べている。 摂食嚥下リハビリテーション分野も可能な範囲から基準化が図られてきている。調整食、栄養管理について様々な発表がなされているが、肝心の摂食嚥下リハビリテーションの内容や基準化については、研究発表もまだ少ないのが現状だと思う。 今後も摂食嚥下リハビリテーションのエビデンスレベルを一つでも上げられる研究を考察していきたい。

加齢と嚥下障害

日本気管食道科学会会報 に「 加齢と嚥下障害 」 (田山二朗65(2): 105-107, 2014.)が掲載されている。   要旨は「日本の高齢化率は平成24年には24.1%に達し, 世界一の『超高齢社会』となった. これら高齢者において肺炎は主要な死因の一つであり, このなかに嚥下性肺炎がかなり含まれていると推定されている. 嚥下障害により生ずる身体的問題は, 「 栄養障害 」と「 嚥下性肺炎 」に集約されるが, 栄養障害に関しては, 胃瘻等の代替栄養法の発達によりある程度の対応が可能となってきた. 一方, 嚥下性肺炎の問題に関しては未だ未解決な状況 にあると言っても過言ではない. また, 嚥下障害に対する対応は, 社会構造や医療・福祉制度とも密接な関係があり, 単に疾患を治療することだけでは済まない状況となってきている.」と述べている。   本文中に高齢者は「診断から対応に至るまでの過程において、生活環境そのものが障壁となる」とあるが、その通りだと思う。独居なのか、外出の機会はあるか、金銭的余裕があるか等置かれた環境により高齢者のADLは変化する。 高齢者の嚥下性肺炎予防には、日常生活の中での予防が重要であり、それは口腔内細菌を減少させることで嚥下性肺炎を予防できる口腔ケアと食事自体が直接訓練と考えると食事回数の増加と思われる。可能な限りこの2点を日常生活の中で増加、維持させることが大切と思われた。  

脳卒中患者の摂食・嚥下障害について

脳と循環に「 脳卒中患者の摂食・嚥下障害について 」 (大沢愛子, 前島伸一郎 19(1): 49-54, 2014.)が掲載されている。 要旨は「急性期脳卒中患者では高率に摂食・嚥下障害を有し, 誤嚥性肺炎の予防が重要な治療戦略の1つとなる. 安全な摂食・嚥下を行うために, 意識レベルや全身状態の安定など, 脳血管障害急性期の経口摂取開始基準を満たしていることを確認後, ベッドサイドで嚥下機能評価を実施する. 必要に応じて嚥下内視鏡検査や嚥下造影検査を行うが, 脳卒中後は症状が不安定なため, 検査結果を過信せず , 慎重に間接訓練や直接訓練などのリハビリテーションを進める必要がある.  」 と述べている。 本文中で「わが国で用いられているベッドサイドの嚥下評価の誤嚥に対する感度・特異度は決して高くなく,これまでに発表され信頼性・妥当性が得られている嚥下障害の評価法にも含まれていない。」と述べられている。  ベッドサイドで行える嚥下スクリーニングテストとして、わが国で最も頻用されているベッドサイドの嚥下機能評価法は、反復唾液飲みテスト(RSST)と改訂水飲みテスト(MWST)であるが、FTも組み合わせた総合的に評価する必要がある。  また、可能であればベッドサイドでVEを実施することでスクリーニングから検査に進めることができる。    脳卒中患者は指示入力が入らない可能性があり、誤嚥性肺炎につながるリスクは高いと考えられる。そのため、急性期脳卒中患者のベッドサイドでのスクリーニングは複数のスクリーニングテストを組み合わせ、またVEを実施することで経口摂食移行へつながると考えられる。