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脳卒中患者の摂食・嚥下障害について

脳と循環に「 脳卒中患者の摂食・嚥下障害について 」 (大沢愛子, 前島伸一郎 19(1): 49-54, 2014.)が掲載されている。 要旨は「急性期脳卒中患者では高率に摂食・嚥下障害を有し, 誤嚥性肺炎の予防が重要な治療戦略の1つとなる. 安全な摂食・嚥下を行うために, 意識レベルや全身状態の安定など, 脳血管障害急性期の経口摂取開始基準を満たしていることを確認後, ベッドサイドで嚥下機能評価を実施する. 必要に応じて嚥下内視鏡検査や嚥下造影検査を行うが, 脳卒中後は症状が不安定なため, 検査結果を過信せず , 慎重に間接訓練や直接訓練などのリハビリテーションを進める必要がある.  」 と述べている。 本文中で「わが国で用いられているベッドサイドの嚥下評価の誤嚥に対する感度・特異度は決して高くなく,これまでに発表され信頼性・妥当性が得られている嚥下障害の評価法にも含まれていない。」と述べられている。  ベッドサイドで行える嚥下スクリーニングテストとして、わが国で最も頻用されているベッドサイドの嚥下機能評価法は、反復唾液飲みテスト(RSST)と改訂水飲みテスト(MWST)であるが、FTも組み合わせた総合的に評価する必要がある。  また、可能であればベッドサイドでVEを実施することでスクリーニングから検査に進めることができる。    脳卒中患者は指示入力が入らない可能性があり、誤嚥性肺炎につながるリスクは高いと考えられる。そのため、急性期脳卒中患者のベッドサイドでのスクリーニングは複数のスクリーニングテストを組み合わせ、またVEを実施することで経口摂食移行へつながると考えられる。

アセスメントの重要性を再考する

近代口腔科学研究会雑誌に 「 TMD の臨床―occlusal splint療法を考察する―」   (朝田文郷 ,  39(1): 71-79, 2013.)が掲載されている。 要旨は「近代口腔科学研究会の例会で, ある会員より提示された症例をもとにTMDの治療について検討が行われた. その会員の診療所では, TMDの治療には, すべての症例においてocclusal splintを用いているそうである. 検討の結果, その会員のTMDの治療は多くの問題を含んでいて, それは 医療行為とは呼べないという 意見が会場から数多くあがった. 特に 問診も含め診査に関してはまったく不十分 であり, それでは患者の状態を正確に判断し診断を下すことさえできないということが示唆された. また, occlusal splintはTMDの治療の能力がない歯科医師が何も考えずに用いているだけの道具であるとか, "顎関節症"という言葉をいまだに使用している日本の歯科界はそのことだけでも世界から取り残されているなど, 会員から多くの意見が出された. 」と述べている。  本文は顎関節症の治療の検討であるが、症例検討の内容を逐語録として掲載されており、内容を読むと、症例提示した先生の診断根拠に乏しいことが記載されていた。これはリハビリを実施する際のアセスメントにも通じるものがあり、リハビリ依頼に診断名は記載されているものの、具体的にどのようなアプローチを行うかは適切なアセスメントに基づく。  本文中に「A先生はただの思いつきで関節円板が転位したとか,顆頭の動きが制限されているとか,言っているだけだと思います。」と述べられており、思いつきによるアセスメントであれば、治療法も違ったものになり、結果としてニーズは満たされないことになる。自分にも当てはめてみると、「なぜこのアプローチをしているのか」と聞かれたときに適切な根拠を説明できることが肝要であり、それは適切なアセスメントに基づかなければならないと考えられる。    

高齢者誤嚥性肺炎予防の新戦略

JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATIONに「 高齢者 誤嚥性肺炎 予防の新戦略 」(大類孝 22(1): 78-81, 2013.)が掲載されている。 要旨は「抗菌薬の開発が目覚ましい現在でも肺炎による入院および死亡者数は増加傾向にあり, これまでわが国の疾患別死亡の第4位を占めてきたが, 厚生労働省の2011年度の報告によれば, ついに脳血管障害を抜いて第3位になり, まさに現代病の様相を呈している. また, 2010年度の人口動態統計によれば, 肺炎による死亡者のなかで65歳以上の高齢者が占める割合は96.6%と極めて高い. 本稿では, 初めに 高齢者肺炎の大部分を占める誤嚥性肺炎の発症の現状について明らかにし , 次にその発症機序を解説し, 最後にその予防策についてこれまでの筆者らのエビデンスを紹介しながら解説したい. 「誤嚥性肺炎の概念」 近年, 外来で対処できる肺炎の患者数は横ばい状態にあるが, 入院を要する肺炎の患者数は年々増加傾向にある. 諸家の報告により異なるが, 高齢者の肺炎のおよそ70%以上が誤嚥性肺炎 であるといわれている.」 文中に「65歳以上の健常人の約2割に大脳基底核近傍のロイコアライオーシス等の脳虚血所見が認められる」と述べられている。 大脳基底核障害が嚥下機能を低下させ、誤嚥性肺炎誘発につながることはこれまでも多く述べられている。では脳血管障害発症以前に大脳基底核の機能低下、もしくは大脳基底核を活性化させる方法はないのであろうか。これから検討していきたいと考える。

介護老人施設に入所している高齢者の摂食・嚥下機能にかかわる状況と施設の対応

新潟歯学会雑誌に「 介護老人施設に入所している高齢者の摂食・嚥下機能にかかわる状況と施設の対応 」(中山富子, 伊藤加代子, 井上誠 43(2): 119-127, 2013.) が掲載されている。                                                  要旨は「介護老人施設入所者の摂食・嚥下機能にかかわる状況と施設の対応を明らかにする目的で, 東京都内にある特別養護老人ホーム3施設, 老人保健施設2施設を対象とし, 独自に作成したアンケート用紙を事前に郵送後, 訪問した. アンケートの回答を確認しながら, インタビューにより内容の補足や追加を行った. 平均年齢や平均介護度 が高い施設に摂食・嚥下障害がある入所者が多い傾向であった. これらの施設は非 経口摂取者も多かった . 経口摂取者では, 常食を食べている人の割合が少なく, 食事摂取量も少ない傾向であり, 食事介助を必要とする人数が多かった. 入所者の食事摂取への対応で, 食事介助や食事時間, 食事場所については, 看護・介護する職員の高齢者の食に対する思いや 考えが反映されている結果であった. 」と述べている。 論文中で、「口腔ケアについては,全施設,歯科医師・歯科衛生士による専門的な口腔ケアを実施していた。施設により,週2回から月1回まで回数にバラツキはあったが,入所者個々に適した口腔ケアを実施してもらうほか,職員に磨き方の指導をしてもらっていた。」とあり施設に歯科医師、歯科衛生士が介入する機会は増加している印象を受けた。 口腔ケアが誤嚥性肺炎発症予防につながることは...

リハビリ病棟における呼吸障害と呼吸リハの必要性

リハビリナース に「 リハビリ病棟における 呼吸 障害と 呼吸 リハの必要性 」 (高橋博達  6(2): 120-125, 2013. )が掲載されている。                                                                             要旨は、「リハビリテーション(以下, リハビリ)病棟に入院となる症例について, 起こり得る呼吸障害の種類と呼吸リハビリの適応について考えてみます. 本稿では, 脳血管障害・脊髄損傷・廃用症候群の症例にしばしば見られる呼吸障害について解説します. 「脳血管障害などによる片麻痺例の呼吸障害」1 片麻痺例にも呼吸障害があるのか? 脳血管障害 などによる片麻痺例(以下, 片麻痺例)では, 上下肢の運動麻痺や感覚障害は生じますが, 呼吸 に直接かかわ る横隔膜や体幹筋の麻痺は生じません . このため, 後述の頚髄損傷のような明確な呼吸障害を生じる根拠は乏しいと思われますが, 実際には 嚥下障害 ・片麻痺・高次脳機能障害・廃用症候群などの影響によって, 種々の 呼吸障害を呈します . 片麻痺例のリハビリ進行に影響を与える呼吸関連の合併症のなかから, (1)嚥下障害 (2)誤嚥性肺炎 (3)呼吸機能障害について解説し...

高齢者の嚥下障害の特徴

音声言語医学に「 高齢 者 の 嚥下 障害の特徴 」(大前由紀雄 54(3): 167-173, 2013.)が掲載されている。                                                 要旨は「高齢者のQOL向上が求められるなか, 嚥下障害を抱えた高齢者の診療を実践する機会が増えている. 高齢者の嚥下障害は, さまざまな原因疾患に関連した嚥下動態の異常に応じて発症するが, 高齢者の抱える身体的・精神的・社会的要因が複雑に絡み合っている. さらに, 加齢に伴う生理的な嚥下機能の低下がその病態を修飾している. 一般的に, 高齢者の嚥下機能検査では, 嚥下反射の惹起遅延や咽頭残留の増加に伴う喉頭流入・誤嚥, ならびに気道防御反射の低下に伴う喀出低下が高頻度に観察される. こうした異常所見には, 加齢に伴う嚥下のメカニズムの変化として, (1)嚥下に関連する 筋力低下 や構造の変化, (2)嚥下に関連する感覚 神経 や運動神経の機能 低下 , (3)嚥下運動を制御する中 枢機構の低下 , (4)身体機能や精神機能ならびに 呼吸機能の低下 , が指摘されている. 本稿では, 嚥下機能検査で観察される異常所見を呈示し, 加齢に伴う高齢者の嚥下機能とそのメカニズムを概説し, 高齢者の嚥下障害の特徴と高齢化社会に向けての嚥下障害の取り扱いを解説する. 」と述べている。   今回の文献で参考になったのは、喉頭蓋谷への残留が舌根運動の低下や喉頭蓋の倒れ込み障害であると述べているところである。通常嚥下前に喉頭蓋谷に食塊があれば、嚥下反射惹起遅延、嚥下...

睡眠時無呼吸と嚥下機能の新たな関連

日本臨床生理学会雑誌 に「 睡眠時無呼吸と 嚥下 機能の新たな関連 」(山口泰弘, 石井正紀, 寺本信嗣 43(2): 71-76, 2013. )が掲載されている。 要旨は「 呼吸調節 と 嚥下活動 の神経支配は, 延髄網様体 において密接に関わりあっている. また, 上気道の筋群への神経活動の低下は, 睡眠時無呼吸を増悪させる因子の一つである. 我々の検討では, 嚥下誘発試験における 嚥下反射の潜時 が, 睡眠時無呼吸症候群の患者において有意に延長 していた. そのほか, 睡眠時無呼吸症候群の患者において, 咽頭粘膜の知覚の低下も報告されている. さらに, 無呼吸に伴う強い胸腔内の陰圧は, 消化液の逆流を増強し, この逆流が不顕性誤嚥を助長する可能性がある. 我々の研究では, 経管栄養を受ける要介護高齢者では, 無呼吸低呼吸指数の増加と3ヵ月間の発熱日数の増加や呼吸器感染症の発症に有意な相関がみられた. 睡眠時無呼吸症候群 は, 心血管疾患への影響のみならず, 上気道防御システムにも影響を与え, 要介護高齢者での肺炎リスクの増加をもたらす 可能性が示唆される.」と述べている。 高齢者は老年症候群にみられるように複数のリスク因子を持ち容易に、廃用症候群に陥る可能性が大きい。今回は嚥下機能低下を睡眠時無呼吸の観点からリサーチした論文である。興味深かったのは睡眠時無呼吸によりGARDが誘発されることであり、高齢者の夜間睡眠状況も確認する必要があると思われた。 嚥下機能低下に関連する因子は多く、一つの原因だけでは述べることは難しいが、メカニズムを一つ一つ解析していくことで、誤嚥性肺炎予防につながっていくと考えられた。                                   ...