投稿

Review of ‘Sick House Syndrome’

環境が患者に与える影響について考えていたところ以下の論文があった。 日本衛生学雑誌 に「 シックハウス症候群に係わる医学的知見の整理 」(関 明彦, 瀧川智子, 岸 玲子, 坂部 貢, 鳥居新平, 田中正敏, 吉村健清, 森本兼曩, 加藤貴彦, 吉良尚平, 相澤好治, 62(4) : 939-948, 2007.)が掲載されている。 内容は「I. 緒言 1990年代後半から, 居住環境中の空気質悪化に起因する健康障害, いわゆる「シックハウス症候群」(Sick House Syndrome;SHS)が社会問題となってきている. これに対して, 当時の厚生省が研究班を組織し, その原因究明と対策方法の検討を行ってきたのをはじめとして, 様々な角度からの調査, 研究が行われ, 今日までに数多くの研究結果が報告されている. また, 日本衛生学会からも「シックハウス症候群に関する見解」が示されている. しかし, SHSの研究についてはさまざまな分野の学会, 研究者が関与していることもあって, 体系的に研究が実施され, その成果も体系的に取りまとめられているとは必ずしも言いがたい. 何をもってSHSとするかの診断基準が研究者により異なっていたり, 発症原因としての化学物質や生物学的要因の検査方法が研究により異なっていたりするなど, 研究手法が必ずしも確立されているとはいえない. また, SHSの病態や原因, 診断, 治療に関しても, 個別には多くの知見が得られているが, 医学的知見を総合的に評価した報告は少なく, 一定の見解が得られているとは言えない.」と述べている。  著者らはSHSの原因に 化学的要因(ホルムアルデヒドやトルエン等) と 生物学的要因(カビやダニ等) を挙げている。 他にも 物理的要因(温度、湿度) があり、これらが複合的に影響しSHSを引き起こす。  私達セラピストはリハビリテーション室や言語聴覚療法室でリハビリテーションを実施する機会が多いが、環境として安全かと問われると分からない部分が多い。また、リハビリテーション室のみならず、病院全体も同様である。病院環境が与えるSHS影響の研究をいずれresearchしたい。

摂食嚥下の社会的ニーズ

九州歯科学会雑誌 に「 社会的ニーズに対応した歯科保健医療教育プログラム開発のための調査研究 」(井上博雅, 吉野賢一, 久保田浩三, 辻澤利行, 園木一男, 吉田成美, 高見佳代子, 粟野秀慈, 仲西修, 柿木保明, 西原達次,  63(5/6) : 277-290, 2010)が掲載されている。 要旨は、「 医療現場における口腔ケアと摂食・嚥下リハビリテーション(以下, 摂食嚥下リハ)の現状と課題を把握し, この分野で貢献するべき人材を育成するための教育プログラムを構築することを視野に入れ, アンケート調査を実施した. 調査は平成18年(以下, 今回)に, 福岡県内の病院, 高齢者・障害者施設(以下, 施設)および歯科医院を対象として行われた. 必要に応じて平成16年(以下, 前回)に病院と施設において実施された同様の調査と比較, 検討した. 今回の調査では病院と保健施設の, それぞれ95.1%, 94.9%が口腔ケアを, 73.2%, 23.3%が摂食嚥下リハを実施していると回答した. また, 前回の調査と比べ, 口腔ケア担当者の職種として第一位は看護師であったがその割合は減少し, より口腔領域の専門性が高い歯科医師, 歯科衛生士, 言語聴覚士などの割合が増加していた. 一方, 摂食嚥下リハにおいては, より多くの医療職が関与して実施されているとの回答が得られた. この結果は, 摂食嚥下リハにおけるチーム医療によって実施されていることを反映したものと考えられた. 口腔ケアおよび摂食嚥下リハに携わる人材には, 「口腔機能管理における専門的知識と技術」と「高齢者に対する知識や介護技術」, ついで「栄養学的知識の習得」の知識と技術が求められた. 高齢社会に対応できる口腔保健の専門家が求められると同時に, チーム医療, とくに栄養補給チームの一員として貢献できる人材が求められていると考えられた. 以上のことから, 口腔ケアと摂食嚥下リハを担当する口腔保健の専門家(とくに歯科衛生士)には, 口腔機能管理における専門的知識と技術のみならず, 社会的ニーズに伴う高齢者に対する知識や技術, 他の医療職との連携がさらに重要になる将来的医療環境に対応できる知識(とくに栄養学的知識)を習得させる教育プログラムが必要であると考えられた.」 と述べている...

摂食・嚥下障害スクリーニング

老年精神医学雑誌 に「 加齢性変化と摂食・嚥下機能の評価 」(弘中祥司, 20(12) : 1352-1362, 2009)が掲載されている。 要旨は「認知症患者の多くは, 病態の本質として先行期障害をもっているが, 同時に高齢者に発症することから, 認知症の特徴だけではなく, 摂食・嚥下器官の加齢変化について同時に考慮しなければならない. 摂食・嚥下機能の評価には, 多くの検査とスクリーニング方法がこれまでに存在するが, 患者の協力性を考慮しつつ, 正確な評価のためには, そのうちのいくつかを組み合わせて正しく評価することが重要である.」とあり、 摂食・嚥下器官の加齢変化 として 口腔・顎 では多数歯の欠如 、咀直筋の筋力低下、舌,舌筋の下垂、口輪筋,頬筋の筋力低下、口腔内感覚閾値の上昇、口腔粘膜の変化、唾液分泌量の減少、顎関節の異常、顎・舌の不随意運動(オーラルジスキネジアの出現)を挙げている。 咽頭・喉頭 では、咽頭括約筋機能不全、喉頭の下垂、喉頭・舌骨の挙上減少 、喉頭の閉鎖不全である。 食道 では食道入口部の開大不全を挙げている。 本内容のメインは嚥下スクリーニングの紹介と引用文献が記載されている。市販のテキストと重複する部分もあるが、摂食・嚥下に携わる方であれば、知っておくべき内容である。同じ検査でも指導教官によっては、若干違う内容になることも少なくない。出典を知ることで、検査の標準化を知ることができる。私にとって大変有用な文献であったと思う。

Diagnosis and Management of Oropharyngeal Dysphagia and Its Nutritional and Respiratory Complications in the Elderly(高齢嚥下障害者の栄養・呼吸器合併診断とマネージメント)

イメージ
  Gastroenterology Research and Practice  Volume 2011, (Laia Rofes,Viridiana Arreola, Jordi Almirall, Mateu Cabré, Lluís Campins, Pilar García-Peris, Renée Speyer, and Pere Clavé) に高齢嚥下障害者の栄養と呼吸状態について掲載されている。調査では高齢者の30%が嚥下障害を呈しており、約半分は不顕性誤嚥である。また、45%は咽頭残留を認め嚥下障害患者の55%が栄養低下を示していると述べている。 Abstract  Oropharyngeal dysphagia is a major complaint among older people. Dysphagia may cause two types of complications in these patients: (a) a decrease in the efficacy of deglutition leading to malnutrition and dehydration, (b) a decrease in deglutition safety, leading to tracheobronchial aspiration which results in aspiration pneumonia and can lead to death. Clinical screening methods should be used to identify older people with oropharyngeal dysphagia and to identify those patients who are at risk of aspiration. Videofluoroscopy (VFS) is the gold standard to study the oral and pharyngeal mechanisms of dysphagia in older patients. Up to 30% of older patients with dysphagia present aspiration—hal...

摂食嚥下リハビリテーションと舌診

医道の日本 に「 舌診で何がわかるの? 」(丸山彰貞, 68(1) : 226-231, 2009)が掲載されている。 舌診については以前触れたが、この文献では舌面から読み取れる5つのことを列記している。 Ⅰ臓腋気血の盛衰をみるⅡ法高の深浅を弁別するⅢ病邪の性質を区別するⅣ病勢の進退を予測するⅤ疾病の予後を判断する 。である。 また、筆者は「初学者は、まず舌苔を先に見るとわかりやすいでしょう。 苔の有無、厚薄、色沢、湿潤、腐賦 などの状況を観察します。 舌の先端から開始し、舌の中部、根部へと進めます 。次に 舌質 の観察をします。 筋肉の色沢、形状、動きなどをみていきます 。舌尖より舌の両側に沿って舌根に至るように、もし舌苔が厚くないときは、苔の下の色沢と形態をあわせて観察していきます。」と述べている。  具体的事例として、「患者は20歳で、小児糖尿病の疾患を持っていました。飲食ごとに血糖値を自ら測定し、医師の許可のもとにインシュリンを注射して自己管理をしていました。最近、残念ながら亡くなられました。糖尿病の舌象は体調によって異なりますが、一般的に舌質紅、苔薄白で干、後期は苔黄にして干あるいは焦黄、あるいは舌質紅にして無苔です。この写真の患者は、前期の症状で舌質紅、苔薄白ですが、やや黄色みをおびて干の状態を示しています。さらに歯根、舌中央に列紋も見られます。虚熱の症状と脾気の機能の低下、胃の機能の低下、心肝の火がやや旺盛な状態が認められます。この当時身体に大きくストレスがかかっていたことがうかがえます。」  と述べている。今回の事例は糖尿病であるが、糖尿病に限らず摂食・嚥下障害を呈している患者は舌苔付着例が多い。今回の文献から摂食嚥下リハビリテーションを進める際、観察所見で舌苔の有無だけでなく、色、厚さを観察し日々の体調の変化を捉えることで摂食嚥下リハビリテーションへの参考になると考えられた。

摂食嚥下障害と舌診

小児口腔外科 に「 口腔ケアの実際 」 ( 柿木保明, 20(1) : 65, 2010)が掲載されている。 要旨は「口腔ケアは, 従来, 口腔清拭や口腔清掃と考えられてきたが, 近年では, 単なる清掃ではなく, 口腔の疾患予防, 口腔環境および口腔機能の正常化, 口腔の健康増進, 摂食嚥下機能を含んだリハビリテーションにより, QOLの向上に寄与するものといえる.  口腔細菌数の減少や口腔乾燥の改善, 嚥下機能の改善にも有用であり, 誤嚥性肺炎の予防にとっても, 重要な意味をもつ. とくに, 口腔が乾燥していると, 口腔内が汚れやすくなり, また, 唾液の粘性亢進は, 粘膜の感覚を低下させるために, 唾液嚥下の回数減少や誤嚥を生じやすくなることから, 注意が必要である.  口腔乾燥のために自浄作用が低下して口腔粘膜が正常な状態と異なっている患者では, 通常の口腔ケアでは改善効果が少ないことがある. 口腔が乾燥している患者では, 唾液や粘膜, 細菌学的な観点からも配慮しながら実施することが必要で, これに口腔機能の向上を加味して行う.   口腔ケアの方法は, 口腔粘膜の状態や, 唾液の状態, 嚥下機能の程度などに応じて選択する. すなわち, 口腔水分計や唾液湿潤度検査紙などを用いた客観的評価により, 粘膜保湿が必要と判断されれば, 保湿成分を含有した洗口剤やジェル製品を用いた粘膜保湿ケアを行う.   これらの客観的評価は, 多職種における情報共有には有効である. また, 唾液低下による口腔機能障害や嚥下障害の改善も重要で, 舌の体操や唾液腺マッサージなども考慮する. 全身的には, 人工唾液の応用や唾液分泌改善薬の使用, 漢方薬の使用, 口呼吸に対する対応, 生活習慣や生活の背景などに対する指導などをあわせて考慮する. 口腔ケア時の観察では, とくに舌の観察が全身状態を推察するのに有効である. 舌診 とよばれる手法であるが, 体質の傾向が理解できることから, 口腔ケアにも活かせる. 」  とあり舌診は主に東洋医学で用いられており、観察ポイントは ①舌の色調,②舌の形状,③舌苔の状態,および④舌の動き である。  口腔ケアは誤嚥性肺炎予防に効果があることは理解していたが、舌診に関しては理解が乏しく、口腔内所見も口腔内乾燥や舌苔の有無程度し...

嚥下に関する神経

音声言語医学に「 神経機序からみた嚥下とその病態 」(進武幹, 41(4) : 320-329, 2000)が掲載されている。 要約は「咽頭期嚥下の神経機序は嚥下の惹起に必須である咽喉頭粘膜の知覚受容給血は自由神経終末,味蕾,数珠状神経終末が広く分布し,これらの神経の起源は上喉頭神経および舌咽神経である.これらの両神経の中枢投射は延髄の弧束核の間質亜核に収束されている.咽頭期嚥下は反射性に惹起されるが,これらは延髄のパターン形成により制御され,嚥下関連ニューロンは 弧束核 のtypeⅠニューロン, 小細胞性網様体 のtypeⅡニューロン, 疑核 のtypeⅢニューロンに 分類された.神経機序からみた嚥下障害の病態は皮質延髄路の障害による嚥下惹起遅延型,脳幹の障害すなわち嚥下のパターン形成障害による嚥下停滞型,咽頭期嚥下惹起不全型に分類し病態について考察を加えた.」  いくつかのポイントは本文で述べられているが一つピックアップした。  「咽喉頭粘膜に分布する神経終末には形態的および機能的性質によりいくつかの異なるタイプに分類され,それらのもつ機能にふさわしい形態をとり嚥下や気道防御反射に合目的な分布様式をもっている.これらの 神経の起源 は舌咽神経および迷走神経から分枝した 上喉頭神経下枝 および 迷走神経の咽頭枝の知覚神経終末 が部位によって異なった密度で広く分布する.これらの終末が食塊などにより刺激されるとこの知覚情報は延髄弧束核に伝達され脳幹から末梢へと反射回路を形成している.」  とあり、逆にいえば、上喉頭神経や迷走神経の知覚が障害されると嚥下をしても感覚低下から惹起遅延を引き起こす可能性があることである。嚥下評価では、喉頭挙上や舌骨の動きに注目しがちであるが、食塊通過の感覚も確認する必要があることを考えさせられた。