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誤嚥性肺炎の予防と治療のサイエンス

ようやく、試験も落着き精神的にもゆとりが出ましたので、久しぶりに文献を読んでみました。 アンチ・エイジング医学に「 誤嚥性肺炎 の予防と治療のサイエンス 」 寺本信嗣, 8(4): 569-576, 2012.が掲載されている。 要旨は「医療の発展によって長寿を達成し, 少子化が継続しているわが国は, 世界でも類をみない高齢化社会を実現している. 65歳以上の高齢者は30%に迫る勢いで, 結果として, 呼吸器内科臨床も高齢者呼吸器疾患を中心とする内科に変貌している. 今後, 世界的に死因の上位を占めると予測される肺癌, 慢性閉塞性肺疾患(COPD), 肺炎は高齢者に多く, その中でも, 肺炎死亡は大半が高齢者であり, その多くが誤嚥性肺炎であることが判明している. そのため, 誤嚥性肺炎の至適治療法の確立と有効な予防の実践が求められている. 誤嚥性肺炎は世界的にみても日本が研究をリードしており, その経緯とエビデンスを中心に解説する.」とある。 内容は、サブスタンスP説の解説や口腔ケアの嚥下反射への効果が記載されている。 また、文中では誤嚥性肺炎は海外にガイドラインがないことや、長寿社会に伴い、今後も治療困難な誤嚥性肺炎が多数発症する可能性を述べている。 高齢者の誤嚥性肺炎対策は今後も継続していく必要があり、エビデンスの蓄積が望まれる。 摂食・嚥下リハビリテーションも今後エビデンスの構築が必要な分野である。文中で嚥下機能の専門家として言語聴覚士の存在が記載されており、言語聴覚士による摂食・嚥下リハビリテーションエビデンス構築への寄与が今後増加していければと思われた。

非経口栄養患者の誤嚥性肺炎予防

ようやく、前期試験も終わり一段落しました。 自分の摂食・嚥下リハの知識・技術を少しずつですが、UPDATEしていこうと思います。 JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATIONに「 非経口栄養患者の誤嚥性肺炎予防 」片桐伯真, 中村智之 20(9): 826 -831, 2011.が掲載されている。 要旨は 「Q1 非経口栄養患者の誤嚥性肺炎の特徴は?」 非経口摂取状態での誤嚥性肺炎の原因には, 主として慢性的な唾液誤嚥に伴う口腔内細菌等 によるいわゆる誤嚥性肺炎と, 胃食道逆流に伴う胃酸による化学性肺炎(メンデルソン症候群)があり, 両者は重複する場合もある. 「Q2 誤嚥性肺炎予防の内容は?」 誤嚥の原因である逆流予防として適切な注入法の選択や経腸栄養剤の半固形化, 注入時や注入後の体位の設定等がある. また, 唾液の慢性誤嚥に対する肺炎発症予防として, 口腔ケア, 嚥下訓練, 薬物療法等 がある. 「Q3 早期に誤嚥性肺炎を発見するためのポイントは?」 リスクにつながる長期臥床状態, 低栄養状態, 基礎疾患の有無, 繰り返す肺炎の既往, 上部消化管術後等がベースにある場合を中心に, こまめに口腔内の汚染, 呼吸器症状, 熱型をチェックし, 問題があれば血液検査や胸部X線, 場合によっては胸部CT等で評価していく.         よくあるのが、監視下レベルでゼリーを食べていたが、炎症値が上昇してくると原因が、誤嚥によるものなのか、尿路感染症や消化器感染症によるものなのか分からないまま、誤嚥疑いのため経口摂食がストップになることがある。一度経口摂食をストップしてしまうと再開の判断に時間を要し結局経口摂食をしないまま転院をという事態の考えられる。 現在、非経口摂食であっても、摂食・嚥下リハの介入は必要であるし、また院内で必要と思われる環境を作ることが重要と思われた。          ...

がん化学療法時の口腔粘膜炎に対する専門的口腔ケアの有用性

日本歯科衛生学会雑誌に「 がん化学療法時の口腔粘膜炎に対する専門的 口腔ケア の有用性 」 黒川英雄, 木村ひとみ, 諌山美鈴, 高藤千鶴, 中道敦子 6(2): 18-24, 2012.)が掲載されている。               要旨は「  がん化学療法 における口腔有害事象のうち 口腔粘膜炎の発生率は40% と報告されている. とくに, 口腔粘膜炎による疼痛や摂食・嚥下障害などで栄養状態の低下や免疫能の低下が問題とされている. そこで, 2009年8月から2010年10月までに, がん化学療法前後に専門的口腔ケア依頼のあった39名を対象として. その取り組みと有用性について検討した. 1. がん化学療法開始前の患者に 専門的口腔ケアを行うことにより, PCR値は有意に減少した . 2. 口腔粘膜炎発症後の患者に専門的口腔ケアを行うことにより, PCR値に有意差を認めなかったが, 減少傾向により口腔粘膜炎のグレードの明らかな低下が認められた. 3. 口腔粘膜炎発症後の患者に専門的口腔ケアを行うことにより, 口腔粘膜炎による疼痛が有意に減少し, 疼痛コントロールが可能であった . 以上のことから, がん化学療法患者に専門的口腔ケアを実施することは, 口腔粘膜炎やその疼痛の重篤化の予防とコントロールに寄与することが示唆された. 」と述べている。  粘膜炎を呈した患者へ口腔ケアを実施すると疼痛発生が起こるが、文中では、専門的口腔ケア介入前後における口腔粘膜炎の疼痛の変化をVAS値で判定している。実際、専門的口腔ケア介入前のVAS値が平均4.2±2.3であったのに対し、専門的ロ腔ケア介入後では2.6±2.9と有意に低下し ていた(p=0.0086)と有意に低下していたことを報告している。  文中でも述べられているが、がん治療により口腔粘膜炎を呈し経口摂食困難になるとQOL低下を招く。そのため、口腔粘膜炎を予防し経口摂食意欲・機能を高めることが重要になる。歯科がない病院でも、今...

口腔アセスメント(ROAG)について

以前、OAGアセスメントについて述べたが、その改良版であるROAGの紹介である。 Andersson P, Hallberg IR, Renvert S.Spec Care Dentist.;22:181-6. 2002に  「 Inter-rater reliability of an oral assessment guide for elderly patients residing in a rehabilitation ward .」が掲載されている。 http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1754-4505.2002.tb00268.x/pdf  要旨は The aim of this study was to test the inter-rater reliability of a revised oral assessment guide (ROAG) for patients residing in a geriatric rehabilitation ward. A consecutive sample of 140 patients was recruited for the study. Oral assessments were performed for 133 newly admitted patients by one registered nurse (RN) during a period of six months. A dental hygienist (DH) carried out 103 oral assessments during the same half-year. For 66 patients, the RN and the DH performed independent assessments. There was an agreement between the RN and the DH in the majority of the independent assessments, except for tongue and teeth/dentures. The percentage agreement exceeded ...

言語聴覚士解剖学考察

日大口腔科学 に「 上顎骨ペーパー・クラフトと形態の理解 」(佐竹隆, 今井重孝37: 43-47, 2011. )が掲載されている。 要旨は「上顎骨の形態を理解するための上顎骨ペーパー・クラフトを考案した. ペーパー・クラフトには上顎骨の八つの形質(上顎体(corpus maxillae), 上顎洞(sinus maxillaries), 口蓋突起(processus palatinus), 歯槽突起(processus alveolaris), 前頭突起(processus frontalis), 頬骨突起(processus zygomaticus), 歯槽孔(foramina alveolaria), 上顎洞裂孔(hiatus maxillaries))があり, 身近に立体構造が確認できる. ペーパー・クラフトの有用性と形態を三次元的に理解することについて考えた. 医療系の学生は ヒトの身体を理解する(分かる)必要がある. そのための基礎を作る教科が人体解剖学の講義と実習 である. 学生は人体解剖学の講義を受け, 実習で身体をつぶさに観察し, その形態や構造を理解する.  」と述べている。 私も現在、解剖学実習が始まり感じるとは、「実習」(自分で実施する)と「見学」は大きく違うことである。表層にある神経から一つずつ確認し剖出することで理解の定着につながると感じた。 現在、コ・メディカルでも自分で剖出可能な養成校が増えていると他の文献に掲載されていた。言語聴覚士の業務領域は頭蓋、喉咽頭であり、解剖見学(実習)を実施させていただいても、脳や喉咽頭付近に限られる可能性がある。しかし、現在、言語聴覚士業務における摂食・嚥下リハの割合は高齢化に伴い増加すると思われ、可能であれば言語聴覚士も、喉咽頭の形態のみならず、近隣の大学と提携し顔面領域の神経、血管、筋肉について解剖見学(実習)し理解を深めることが重要と考えられた。 今回の論文はペーパークラフトがあり、ダウンロードして作成することで理解向上に役立つと思われた。

手術直前に実施したプラークフリー法による食道癌術後肺炎予防の有効性

日本歯科衛生学会雑誌 に「 手術直前に実施した プラークフリー法 による食道癌術後肺炎予防の有効性 」(森川知昭, 木崎久美子, 河田尚子, 花岡宏美 2(2): 43-47, 2008. )が掲載されている。 要旨は「手術後の合併症には種々のものがあるが, 肺炎は最も重篤な合併症のひとつである. 中でも人工呼吸器関連肺炎(ventilator-associated pneumonia;VAP)は致死率が高く, VAPへの対策は大侵襲手術後管理を担うICUにおいてきわめて重要な課題である. VAP予防対策のひとつとして, 米国CDCのガイドラインにおいては, 口腔ケアの重要性が示されている. しかしながら, 経口的に気管内挿管された人工呼吸管理中の患者に対する口腔ケアは, 必ずしも効果的に行われているとは言い難い. その理由はいくつかあり, まずチューブがあるためケアに使用する器具の到達性が悪く, 誤抜管の危険性もあり, 技術的に容易ではない. また, ケア時の出血や, 菌血症が恐れられる傾向にある. さらに, 時間とマンパワーが慢性的に不足しており, 口腔ケアは後回し, あるいは不充分になりがちである. そして, 絶食中であることに加え, 鎮静剤, 利尿剤などの薬剤の副作用で唾液分泌が著明に低下 する. 」と述べている。                    プラークフリー法とは、 歯垢を完全に除去できれば、再形成には 時間を要するため次からの口腔ケア実施時間が短縮できる方法である。そのため、 逆に絶食中でも歯垢が残存していると、 歯垢中の微生物は病原性の高い菌叢へ移行する可能性がある。プラークフリー法は、医科歯科連携において大変有用な方法と思われるが、多くの病院は院内に歯科がないのが現状である。そのため、プラークコントロールを誰が実施するのかが、問題になる。現在スケーリング等予防処置は歯科衛生士が行っているが、病院内では研修を受けた看護師や言語聴覚士が実施できると業務の効率化につながり...

誤嚥性肺炎パスの有効性の検討

日本クリニカルパス学会誌 に「 包括的かつ個別化介入を主眼とした 誤嚥性肺炎 パスの有効性の検討 」(岡本真紀乃, 荒幡昌久, 森河尚江, 田中正康, 南眞司 14(1): 5-10, 2012. )が掲載されている。 要旨は「高齢者誤嚥性肺炎は, 多様な病態に起因する難治性疾患であり, 肺炎治療のみでは不十分である. 当院では, 2007年に本症に対して「スクリーニングシート」を用いたチームによる包括的かつ個別化された介入を行い, その予後を改善し得た. 検証の結果, (1)患者の問題点を多職種で綿密に把握する, (2)情報を共有して問題点を整理する, (3)重点化した対策を行う, というオーダーメイド的治療(個別化介入)が重要であることが判明した. そして, 2009年にスクリーニングシートを改良し, これを中心とした誤嚥性肺炎パスを作成し, チームによる運用を行ってきた. 今回, 誤嚥性肺炎パスの効果を検証するため, DPC病名が誤嚥性肺炎である当院の入院例110件を対象に, パス使用群(55件)と非使用群(55件)の間で比較検討を行った. 退院時転帰は両群間に有意差はなかったが, パス使用群で在院日数の短縮(25.5±15.2日対37.2±34.2日, P=0.045)と在宅復帰率の改善傾向(96.8%対80.8%, P=0.083)を認めた . また, 入院14日目までの診療報酬点数の検討では, リハビリテーションに係る点数のみがパス使用量で有意に高かったが, 総点数には差がなかった. この結果は, 誤嚥性肺炎の診断直後からパスに従って各職種が効率的に介入し, リハビリテーションをはじめとする個別化介入が奏功したことを反映しており, パスの有効性が証明された .」と述べている。 誤嚥性肺炎パスの検討であり、大変興味深く読むことができた。以前PEG造設パスの文献を参照したことがあるが、リハビリテーション介入を含む誤嚥性肺炎パスの有効性に関する報告はあまり多くない印象である。 着目は、パスの使用による在院日数減少も重要であるが、医師・看護師・セラピスト・栄養士が記載することで、誤嚥性肺炎治療への参加、アプローチを明確にしている点と考える。また、パス...