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病気を持った患者の歯科治療

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今年の4月から大学院歯学研究科口腔外科に大学院生として所属している。 大学病院へは全身疾患を持った方が来院されることがあるため、病態と歯科処置の関連性を知ることが重要となる。 長崎県保険医協会から出版されている「病気を持った患者の歯科治療」を一読したが、 小さいながらも取り上げられている疾患の数も多く、カラーながら3500円とリーズナブルである。 これを機に全身疾患と歯科治療時の留意点について理解を深めていきたい。

パスに役立つ嚥下障害・誤嚥性肺炎・口腔ケアの基礎知識

日本クリニカルパス学会誌 に「 パスに役立つ嚥下障害・誤嚥性肺炎・口腔ケアの基礎知識 」(高畠英昭 18(3): 249-253, 2016.) 要旨は「嚥下障害は高齢化が進む我が国において大きな問題である. 嚥下障害が重度になれば胃瘻による栄養管理が行われるが, 胃瘻の原疾患の過半数は脳卒中であり, 約1/3は認知症である. 脳卒中・認知症共に高齢者に高頻度に起こる疾患であり, 人生の最終章に最期まで口から美味しく食べられるケアのニーズは高い. 誤嚥性肺炎は嚥下障害の代表的な合併症である. 重度の嚥下障害のために胃瘻造設された人たちの半数は約2年で死亡し, 死因の約60%が肺炎であるという事実が示すように胃瘻では誤嚥性肺炎を予防することはできない. 一方, 積極的な経口摂取訓練により肺炎発症が減少することは臨床試験でも確認されている. また, 口腔ケアによる肺炎予防効果が注目を集めているが, 口腔ケアの目的は必ずしも肺炎予防だけではない. 最期まで口から美味しく食べられるケアのためのパス作成に役立つ , 嚥下障害・誤嚥性肺炎・口腔ケアの基礎知識について述べる.」と述べている。 本文で紹介されている「マクロアスピレーション」、「マイクロアスピレーション」については、 「食事時の誤嚥」、「食事以外(主に就寝時)の誤嚥」の意味で使用されている。 本文では、マクロアスピレーションによる、誤嚥性肺炎の発生率は1.0%程度とされている。 このことから、マクロアスピレーションより、マイクロアスピレーション対策が重要であり、口腔ケアは就寝前に徹底して行うことが肝要といえる。 もし可能であれば、夕食後の時間から言語聴覚士や歯科衛生士が介入し対象者に口腔ケアを行うことで、日中に口腔ケアを行うよりも誤嚥性肺炎をより抑制できる可能性があると思われた。

誤嚥と誤嚥性肺炎について考える

日本外科感染症学会雑誌 に「 誤嚥と誤嚥性肺炎について考える 」(大下慎一郎, 志馬伸朗  13(3): 185-191, 2016.)が掲載されている。 要旨は「本邦における肺炎の死亡者数は年々増加しており, 現在, 悪性新生物, 心疾患に続き, 死亡原因の第3位を占める. 肺炎のうち, 咽喉頭部や胃内の物質を下気道へ吸入することによって発症する肺炎を, 誤嚥性肺炎とよぶ. 誤嚥性肺炎には, 大きく分けて, (1)口腔・咽頭内容物の誤嚥による誤嚥性肺炎, (2)胃食道逆流物の誤嚥による化学性肺炎の2種類がある. 誤嚥性肺炎は発見が遅れることが多く, また再発・再燃を繰り返すことも多いため, 耐性化・難治化を惹起しやすい. 従来の認識と異なり, 誤嚥性肺炎の起炎菌 は嫌気性菌のみではなく, グラム陰性桿菌が大部分を占める ようになっている. 誤嚥性肺炎では治療のみならず予防も重要であるため, アンギオテンシン変換酵素阻害剤による誤嚥予防を含め, 頭位挙上・口腔ケア・適切な鎮静・制酸薬・深部静脈血栓予防・栄養状態改善・リハビリなど, 包括的な全身管理が重要である.」と述べている。 本文では、高齢者における誤嚥性肺炎リスクに関するシステマティックレビューでは, ①高齢 ②男性 ③慢性肺疾患 ④嚥下障害 ⑤糖尿病 ⑥認知症 ⑦口腔内の不衛生 ⑧栄養不良 ⑨パーキンソン病 ⑩抗精神病薬・プロトンポンプ阻害剤の使用 ⑪ACE阻害剤の未使用 等があると誤嚥性肺炎にかかりやすいとある。この中で摂食嚥下リハビリテーションによる介入ができるのは主に④と⑦であると考える。 他はリハビリというより、薬による治療の範囲であるため、治療担当医師との連携が重要になる。 ④は言語聴覚士、⑦は歯科が介入すれば、より効果が期待でき誤嚥性肺炎治療促進につながると思われた。

咀嚼・嚥下における舌圧の意味と可能性

日本補綴歯科学会誌 に「 咀嚼・嚥下における舌圧の意味と可能性 」(小野高裕, 堀一浩, 藤原茂弘, 皆木祥伴 8(1): 46-51, 2016.)が掲載されている。 要旨は「運動性を評価する上で,舌と口蓋が接触することによって生じる舌圧は,有効な指標となる.健常 者において一定のパターンを示す嚥下時の舌圧発現様相の崩れは,嚥下障害の出現と関連している.また,咀嚼 の進行に伴う嚥下前の口腔から中咽頭への食塊の輸送には,咀嚼サイクル毎の舌圧発現の増加が関与している. 舌圧や咀嚼能率を用いることによって, 咀嚼・嚥下障害の程度を客観的に把握 し,治療やリハビリテーション の合理化・能率化をはかることは, 超高齢社会における歯科補綴治療のイノベーションに寄与する と思われる.」と述べている。 本文で重要と思われたのは、「舌圧測定のような機能レベルの評価法だけでは不十分である。」、「咀嚼して食べる楽しみを回復するということであれば、能力レベルの評価尺度をもつ必要がある」と述べている点である。 嚥下障害がどのstageなのかにもよるが、歯科医師が介入することで嚥下障害の改善にどの程度寄与したのかについては、私の論文検索能力が不十分な故、理解に至っていない。そのため、今後も継続して文献検索をしていきたい。

感染予防としての口腔ケア

日本顎咬合学会誌 に「 感染予防としての口腔ケア 」(松尾浩一郎 35(1/2): 82-87, 2015.)が掲載されている。 要旨は「1. 高齢社会の中での歯科医療の方向性」本邦では65歳以上の高齢者の人口割合が2013年についに25%に達した. 今後, 団塊の世代が後期高齢者となるいわゆる2025年問題を控え, 医療, 介護では, 高齢者対策が喫緊の課題として動いている. 今後さらに高齢化が加速していく中で, 歯科医療も疾患を持った高齢者に関わる機会が一層増えていくことは間違いない. これからの 高齢者への歯科医療は , 今までのようなう蝕や歯周病への対応から 口腔機能低下への対応へとシフトしていく ことが予想される.」と述べている。 言語聴覚士や歯科衛生士が摂食機能療法の一環で口腔ケアを行う場合、もし担当人数が多すぎて誰を優先すべきか考えた時、本文でも紹介されているOHAT(Oral Health Assessment Tool)を使用する方法もあるのではと思う。 適切な時期への介入を逃すと経口摂取が困難になりQOLの低下につながる可能性があるため、経口摂食が可能そうであるが、点数の高い(より病的)な方の改善を優先するという方法も考慮するとよいと思われた。

高齢者の摂食嚥下障害患者との関わり

Geriatric Medicine に「 高齢者の摂食嚥下障害患者との関わり 」(青山寿昭  54(1): 31-34, 2016.) が掲載されている。 要旨は「高齢化に伴い, 加齢により嚥下機能が低下した高齢者が原疾患の治療を行うことも増えている. 嚥下障害予備軍だった高齢者が入院や治療をきっかけに嚥下障害になる, もしくは嚥下障害を抱えての入院治療も増加している. 治療の妨げになる窒息や肺炎, 栄養障害を発症する前に嚥下障害を発見して関わることで, 原疾患の治療経過も良好になると考える.」と述べている。 身体的観察ポイントのところで、「口腔(乾燥・汚染・口内炎・歯牙・口臭・義歯の有無と適合・腫脹)」とあり、高齢者では唾液分泌機能低下に伴う口腔乾燥が問題になることが多い。 口腔乾燥を改善するためには、唾液マッサージや口腔内保湿があるが、唾液低下を劇的に改善するものではない。 しかも薬剤により更に唾液分泌が低下する可能性があり、今後高齢者の摂食嚥下障害を考える上で唾液分泌低下についてもより意識する必要があると思われた。

加齢に伴い増加する口腔内病変

歯学に「 加齢に伴い増加する口腔内病変 」(田中彰 103(suppl1): 11-15, 2015.)が掲載されている。 要旨は「本邦は, 本格的な超高齢化社会に突入し, 2025年には, 全人口の約30%が65歳以上の高齢者で占められると推測されている. 現在, 将来的な医療, 介護の負担増加に備え, 日常的に介護が不要で自立した生活を送ることができる「健康寿命」の延伸に向けて, 様々な分野で, 介護予防や認知症対策に加え, アンチエイジングに向けた取り組みが行われている. 歯科医学分野でも, 口腔リハビリテーションや口腔ケアをはじめとする種々の対策が進められている. 一方, 加齢による生体の生理的変化 (老化) は, 個体差や栄養, 全身状態などにより差異は生じるが, 避けることのできない現象 である. また, 高齢者は複数の疾病に罹患することが多く, 種々の薬物を適用されている. このため, 高齢者に特徴的に好発する各種病変や, 罹患疾病 (基礎疾患) に続発する合併症などは, 「健康寿命」を左右しかねない重大な因子の一つである.」と述べている。 項目4で薬剤関連顎骨壊死(Medication-related osteonecrosis of the jaw:MRONJ)が述べられている。高齢者で骨粗鬆症でBP製剤を服用している方や化学療法でこれから服用開始をされる方は少なからずいると考えられる。 そのため、問診時にBP製剤の服用をしているかを確認することは必須といえる。もし抜歯等外科的処置を行う際は処置前3カ月、処置後2カ月の計5カ月近く休薬することになり、外科的処置よりもBP製剤服用継続の方が大事であれば、検討する必要がある。 これからの高齢者歯科はタイトルの通り「加齢に伴い増加する口腔内病変」を考慮し、治療に臨むことが重要だと考えさせられた。