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入院患者の経口摂取再開時の嚥下機能評価

夏休みに入りましたので、再開しました。 日本耳鼻咽喉科学会会報 に「 入院患者の経口摂取再開時の嚥下機能評価 ―経口摂取可否の予測因子の検討を中心に― 」 (高柳博久, 遠藤朝則, 中山次久, 加藤孝邦 116(6): 695-702, 2013.)が掲載されている。 要旨は「 急性期病院において, 入院患者の絶食後の経口摂取再開が可能か不可能かは非常に関心の高い問題である. 今回われわれは経口摂取再開時の嚥下機能評価の中で, 退院時に経口摂取可能か否かに関与する予測因子について検討した. 対象は2010年1月~12月までの1年間に入院した患者で, その間に絶食していて経口摂取再開時に嚥下機能評価した186例である. 平均年齢80.9歳(50~99歳), 観察期間は初回診察日から退院までとし, 平均日数は32.6日(3~206日)であった. 検討項目は 年齢, 性別, 食欲(患者自身の経口摂取の希望の有無), 咽頭拘扼反射の有無, 舌運動, 反復唾液飲みテスト, 指示従命, 嚥下内視鏡検査:水飲みテスト前の咽喉頭の唾液の貯留, 喉頭の感覚, 水飲みテストの誤嚥の有無 である. 嚥下機能評価後の入院中死亡例は評価が難しく除外して検討した. 経口摂取可能群は112例(60.2%), 不可能群は54例(29.0%), 死亡例20例(10.8%)であった. 有意差を認めたものは 年齢, 性別, 食欲, 舌運動, 反復唾液飲みテスト, 指示従命, 嚥下内視鏡検査(水飲みテスト)(P<0.05) であった. 経口摂取可否の予測因子が分かれば経口摂取再開時の嚥下機能評価に非常に有用であり, 嚥下障害と誤嚥性肺炎発症の可能性が示唆されていても対応を十分に取れば, 入院中の経口摂取の可否に対し影響を低下させる可能性が示唆された. 」と述べている。 本文では、咽頭絞扼反射以外で有意差が認められており、それぞれ予測因子について考察が述べられている。 RSSTについて、本来嚥下障害のスクリーニングであるが、経口摂取の可否の判断にも有用な可能性があると述べている。 私自身は、嚥下障害=経口摂取の可否の判断材料と考えていたため、経口摂取判断としてのRSSTをもっと考える必要があると思われた。...

誤嚥性肺炎の臨床的特徴

Medical Technology に「 誤嚥性肺炎 の臨床的特徴 」(青木洋介 40: 1094-1097, 2012.)が掲載されている。  要旨は「誤嚥性肺炎は, 市中発症と院内発症とで原因菌が異なる. 前者においては一般の市中肺炎とは異なり口腔内連鎖球菌属が主体となるが, 後者では通常の院内肺炎と同じくグラム陰性菌が主体となる. 誤嚥性肺炎の多くは不顕性誤嚥により発症するため , 正しい診断のためには発症のリスク因子を認識しておくことが必要である. 「はじめに」誤嚥性肺炎という診断名を日常臨床で耳にする機会は非常に多い. 高齢患者が多いことがその理由の1つであると思われるが, 「意識障害(変調)」+「肺炎」を認める患者が誤嚥性肺炎であるとは限らない. たとえば, レジオネラなど重症市中肺炎に起因する意識障害をきたす病態を誤嚥性肺炎と診断することを避けるには, 誤嚥性肺炎を一定の尺度で正しく診断できる必要がある. 「誤嚥性肺炎とは」肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)やインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)のような気道親和性が高い病原菌による肺炎は狭義の市中肺炎とよばれ , これらの病原菌が呼吸とともに下気道に吸引されることで, 健常成人においても肺炎が成立する . 」と述べている。 これまでの研究より、口腔内の不衛生により、口腔内連鎖球菌や口腔内偏性嫌気性菌が増殖することが分かっている。口腔内連鎖球菌を誤嚥することにより嚥下性肺炎を誘発する可能性が高齢者になるほど高くなる。嚥下性肺炎予防の一つとして唾液分泌能向上が考えられる。その理由として、文中にもあるように唾液にはanti-microbial作用があるためである。 文中でも、長期療養患者の誤嚥性肺炎予防には口腔ケアが推奨されているが、本文を読み嚥下性肺炎予防になぜ口腔ケアが重要なのか微生物学的知見より考察することが重要と思われた。  

高齢者に対する呼気筋トレーニングが随意的咳嗽力に及ぼす効果

理学療法科学に「 ケアハウスの高齢者に対する呼気筋トレーニングが随意的咳嗽力に及ぼす効果 」( 山下弘二, 柿崎彩加, 26: 777-780, 2011.)が掲載されている。 要旨は「本研究では, 施設入居中の高齢者に対し EMST(Expiratory muscles strength training) プログラムが随意的咳嗽力に及ぼす効果について明らかにすることを目的とした. 〔対象〕対象者はケアハウスに入居している高齢者21名とし, EMSTプログラムを行ったEMST群10名(年齢80.6±8.6歳)と対照群11名(年齢76.7±9.3歳)に分けた. 〔方法〕EMSTのプロトコールは, 呼気筋訓練器( Threshold(R)PEP )を用い, 最大呼気圧の50%の圧力に設定し, 15回2セットを1日に2回, 5週間実施した. 測定項目は最大呼気圧, 最大吸気圧, 努力性肺活量, 一秒量, 最大呼気流速, 最大咳嗽流速とした. 〔結果〕5週間後に, 対照群は全ての測定項目で有意な変化は認められなかったが, EMST群は 最大呼気圧, 最大呼気流速, 最大咳嗽流速に有意な増加が認められた . 〔結語〕本研究により施設入所の高齢者に対するEMSTは, 呼気筋力が大きく関与している随意的咳嗽力を高めるための効果的なプログラムであることが示唆された. 」と述べられている。 以前、吹き矢トレーニングによる呼気筋トレーニングについて紹介したが、今回は随意的咳嗽力向上のためにThreshold PEPを使用しEMSTを実施している。 嚥下性肺炎予防のためにEMSTは有効と考えられるが、今回対象群、コントロール群ともMNAが平均して25点以上もあり、十分な栄養状態で実施されている。そのため最大呼気圧の50%と15回2セットという高い負荷で実施可能と思われた。そのため、嚥下性肺炎予防のメニューとして有効と考えられた。 急性期の嚥下性肺炎発症後の摂食・嚥下リハとしてEMSTは有効かリサーチしていきたい。

新たな認知症施策の方向性

PROGRESS IN MEDICINE に「 厚生労働省が呈示した新たな認知症施策の方向性 」 (山口晴保 , 山口智晴 32: 2591-2596, 2012.)が掲載されている。   「はじめに」2012年6月18日に『今後の認知症施策の方向性について』という報告書が, 厚生労働省認知症施策検討プロジェクトチームから公表された. この報告書は, 藤田厚生労働大臣政務官を主査(チーフ)とし, 医政局, 社会・援護局, 老健局, 保険局の4局長と, 障害保健福祉部長を副査とする省内横断的なプロジェクトチームで, 過去10年間の認知症施策を再検証し, 今後目指すべき基本目標とその実現のための認知症施策の方向性 について呈示したものである. 一般病院の医療は医政局, 精神科病院は障害保健福祉部, 介護保険を担当して認知症対策部門があるのは老健局, 医療保険が保険局という縦割り行政の中で, 省内横断的なプロジェクトチームで認知症施策を議論したのは素晴らしいことだが, 一部の専門家・実践者などへのヒアリングで議論がまとめられたようで, 省内各部局の実務者からの意見や実績を基盤とした施策ではなく, 理想論のようなトップダウンの施策の色彩が強い. 」と述べられている。   認知症患者が2025年には470万人になるとの報告があり、認知症に対する施策の方向性が求められる中で、2013年より 認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン) が策定された。 今後は、初期対応を充実させることで、Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia(BPSD)の予防や「身近型認知症疾患医療センター」を設置し、在宅生活のサポートを充実させていく予定である。 これまでは、高齢化社会の対応でゴールドプランが策定されたが、今後は高齢化に伴う症状別の対策を立てることが重要と考えられた。また、認知症に対してセラピストの関わりも重要と思われ、更なる認知症改善に有効なリハビリテーションの開発、実施が望まれると思われた。    

誤嚥性肺炎の予防対策

難病と在宅ケア に「 誤嚥性肺炎の予防対策 」( 大類 孝 18: 37-41, 2012.)が掲載されている。 要旨は「肺炎は抗菌薬の開発が目覚ましい現在でも, 日本での疾患別死亡の第4位を占めています. また, 2009年度の人口動態統計によれば, 肺炎による死亡者の中で65歳以上の高齢者が占める割合は96%と極めて高いのです. 高齢者の肺炎は, 近年, 難治例が増加しつつあると言われています. 本稿では初めに, 高齢者肺炎の大半を占める誤嚥性肺炎についてその発症の要因を解説し, 次に 予防策として嚥下反射や咳反射を改善させる薬物や食品および口腔ケアが有効 である事について述べ, 最後に高齢者肺炎予防のためのワクチンの有用性について解説します. 「高齢者の肺炎の成因」 高齢者の肺炎は近年複雑化し, 難治例が増加しつつあると 言われています. その背景には, 超高齢社会を迎えさまざまな基礎疾患を抱えた易感染状態の患者様が増加している点や, 加齢に伴う免疫能の低下のために弱毒性の病原微生物によっても肺炎を発症し得る点, また, 抗菌薬に耐性を有する細菌(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌やペニシリン耐性肺炎球菌など)の出現が挙げられます. 」と述べている。 文中で述べられている嚥下性肺炎予防法について、 カプサイシン、ACE阻害薬、塩酸アマンタジン等について述べているが、興味深い内容として、葉酸欠乏が嚥下障害を引き起こすため葉酸の補充を挙げている。 まだ、文献検索していないが、嚥下性肺炎患者の葉酸値や実際にどの程度の葉酸補充により嚥下機能の改善がみられたか興味がある。 投薬はセラピストには難しいが、葉酸であればゼリー等直接訓練の範囲内で実施できる可能性がある。今後のリサーチに期待したい。

歯科医師国家試験からみる摂食嚥下障害

今年度の歯科医師国家試験も合格発表が終わり本日、言語聴覚士国家試験結果が発表になった。 歯科医師は受験者3321名で合格者2366名。合格率は71.2%であり、 言語聴覚士は受験者2381名で合格者1621名。合格率は68.1%である。 なお、本日発表のあった歯科衛生士は受験者6064名で合格者5832名。合格率は96.2%である。 この言語聴覚士合格者数が今のニーズとマッチしているかは不明だが、昨年の理学療法士国家試験(受験者数11,956,合格者数9,850,合格率82.4%)や作業療法士国家試験(受験者数5,821,合格者数4,637,合格率79.7% )に比べるとやはり少ない印象を受ける。 今後も引き続き言語聴覚士の社会的重要性が認知され、養成校増加につながればと思う。 本題に戻すと、歯科医師国家試験でも摂食・嚥下障害に関する問題は継続して出題されており、しかも解説書によると年々専門的になっているとある。摂食・嚥下障害はチームアプローチであるため、専門職の専門的な知識をできるだけ共有することが重要と言える。 以下は実際に出題された例である。 102回歯科医師国家試験 嚥下機能が障害される頻度が高いのはどれか。 2つ選べ。 a  唾石症 b  脳血管障害 c  三叉神経痛 d  筋筋膜疼痛症候群 e  筋委縮性側索硬化症 100回歯科医師国家試験 70歳の男性。脳血管障害の後遺症で鼻音化が認められる。構音の改善に有効なのはどれか。 a  栓塞子 b  舌接触補助床 c  スピーチエイド d  軟口蓋拳上装置 e  スタビリゼーションスプリント ※スタビリゼーションスプリントとは、マウスピースのようなもので咬合面を覆い、均等な咬合接触を付与することで下顎の安静を得るものである。 高齢化の進展に伴い、今後も歯科従事者にとり摂食・嚥下障害に関する知識は必須と思われた。  

失語症デイサービスのアウトカム評価

自分の住んでいる地域で失語症専門デイサービス開設の案内があったが、失語症デイサービスの具体的な内容については、知らなかったため調べてみた。 コミュニケーション障害学 に「 失語症 デイサービス のアウトカム評価 」 (阪野雄一, 中村光, 28: 159-165, 2011.)が掲載されている。 要旨は「失語症者専用デイサービス「ことのは」に通所している利用者の各種検査値の経時的変化から, 失語症デイサービスの効果について検討した. 対象は「ことのは」を1年以上継続して利用した失語症者14名. 初回利用時, およびその後は1年に1回, 言語機能(SLTAで測定), コミュニケーション機能(CADLおよびCADL質問紙で測定), 介護負担感(COM-Bで測定)に関する評価を実施した. その結果, 1年後の再検査が実施できた14名の中では, 利用開始時に比べSLTAは11名, CADLは12名, CADL質問紙は11名で成績が向上した. 2年後の再検査が実施できた8名の中では, 利用開始時に比べSLTAは7名, CADLは8名, CADL質問紙は6名で成績が向上した. 1年目から2年目の間でも, SLTAは6名, CADLは4名で成績が向上した. 失語症デイサービス は, 慢性期失語症者の言語・コミュニケーション機能の回復にとって有効な環境 の一つであると考えた. 」と述べている。   ここのデイサービスの特徴は毎週日曜日(週1回)に失語症リハビリを実施している点である。 早期退院の傾向から退院後のリハビリの充実が求められるが、デイサービスに所属している言語聴覚士はまだ少ないと考えられる。(もともとセラピスト自体も少ない可能性) このことから、週に曜日を設定し失語症リハビリを実施する内容はとても有効だと思われた。 また、デイサービスに通所している摂食・嚥下障害残存利用者についても今後、月1回からでも、医師、歯科医師が出張し摂食・嚥下障害の評価(VE、咳テスト等)をして摂食・嚥下のアドバイスをすることでデイサービス利用者の生活向上につながると考えられた。