投稿

急性期病院における嚥下造影検査を元にした栄養手段と肺炎の発生率

JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATIONに「 急性期病院における嚥下造影検査を元にした栄養手段と肺炎の発生率  」 (川上途行, 藤原俊之, 伊藤真梨, 辻哲也, 長谷公隆, 里宇明元 21 , 312-316, 2012.)が掲載されている。 要旨は「嚥下造影検査(videofluoroscopic examination of swallowing; VF)は, 口腔, 喉頭, 咽頭, 上部食道の機能と構造ならびに誤嚥の有無の評価に関しては現在のところ最も有力な検査法である. また, 代償的な治療戦略の決定にも有用であるため, 臨床場面で広く行われている. 脳卒中ガイドライン2009においても, リスク例にはVF等の詳細な評価が必要であり, VFの異常が誤嚥性肺炎の発症と関連していると記されている. また, 市中肺炎の59.5%, 院内肺炎の86.8%が誤嚥性肺炎であるという報告や, 食道切除, 膵切除, 腹部大動脈瘤再建等の外科術後では3.6~18.1%, 肺切除のための開胸術後の17.8%で誤嚥が生じると報告されている. 急性期病院では疾患が多岐にわたり, 上記の疾患を中心にさまざまな基礎疾患に伴う嚥下障害の検査目的でVFが施行される. 脳卒中, 肺炎, 外科術後等において誤嚥性肺炎を予防することは重要である. そこで筆者らは当院におけるVFの現状と, VF前後における経口摂取例の増減と肺炎の発生率を調査したのでここに報告する. 」と述べている。 本文では「VFまでの期間は4~96日,中央値で23.5日であった.VFから退院までの期間は16~64日,中央値26日であった.」と述べており期間に幅があるが、VF実施から退院までは約2か月近く要している。そして「VF前に57名いた肺炎患者がVF後に13名に減少していた.」と述べており、顕著な効果を示していた。考えられたこととして、VFを実施できる肺炎患者であれば、回復する可能性が高いため、顕著に減少した可能性も考えられる。 近年、医療が病院から在宅への流れに伴い、機械的な嚥下評価もVFより簡便なVE(嚥下内視鏡検査)の流れに移行している印象があった。しかし、病院内で可能であれば、VFとVEを組み合わせた評価が望ましいと思われる...

PASを使用した脳血管障害患者に対する嚥下機能改善

イメージ
講義のグループで抄読した、 PAS( Paired associative stimulation) を使用した脳血管患者に対する効果を検討した論文です。 Targeting unlesioned pharyngeal motor cortex improves swallowing in healthy individuals and after dysphagic stroke. Michou E, Mistry S, Jefferson S, Singh S, Rothwell J, Hamdy S.   Abstract BACKGROUND & AIMS: Patients with stroke experience swallowing problems (dysphagia); increased risk of aspiration pneumonia, malnutrition, and dehydration; and have increased mortality. We investigated the behavioral and neurophysiological effects of a new neurostimulation technique (paired associative stimulation [PAS]), applied to the pharyngeal motor cortex, on swallowing function in healthy individuals and patients with dysphagia from stroke. METHODS: We examined the optimal parameters of PAS to promote plasticity by combining peripheral pharyngeal (electrical) with cortical stimulation. A virtual lesion was used as an experimental model of stroke, created with 1-Hz repetitive transcranial magne...

嚥下と呼吸の神経調節機構

嚥下医学 に「 嚥下と呼吸の神経調節機構 」(越久仁敬 2: 47 -52 2013)が掲載されている。 要旨は「淡路島で在宅診療を行っていた時に, 忘れえない患者さんを診させていただいた. 突然に全く嚥下ができなくなったという. 往診した時には唾液も飲み込めずに洗面器に吐き出していた. 延髄外側の梗塞が原因であったが, 球麻痺以外はWallenberg症候群の症状は何もなく, 睡眠時に中枢性の周期性無呼吸を認めた症例 であった. この方は特殊なケースであったが, 嚥下障害を訴える, あるいは家人に指摘される高齢者は非常に多い. その多くは, 原因はわからないが嚥下反射が起こりにくかったり, 遅延が認められたりするケースである. このような嚥下障害患者に対するアプローチは, 専門性や立場によってさまざまであろうが, 本稿では主として嚥下と呼吸の神経生理学の視点から嚥下障害の病態生理と治療法について考察する. 呼吸の中枢パターン生成機構(CPG:Central Pattern Generator)は, 下部脳幹(橋~延髄)に存在する. 」と述べている。  文中で、「大脳皮質嚥下関連領域の活性化は、嚥下閾値を下げて嚥下を促通させる方向に働くものと考えられる。」と述べている。ということは大脳皮質が嚥下CPGと組み合わせて嚥下活動を行っていると考えられる。そのため、大脳皮質嚥下関連領域の活性化も併せて行う必要があり、今後は具体的方法が求められる。 大がかりな機械に頼らない、一般病院でも可能な大脳皮質関連領域の賦活化方法として、刺激物の使用や座位、立位姿勢への変更などが考えられるが、まだ分からないことが多い。しかし、考慮として、同じ体位の持続は脳活動の賦活化につながらないため、介入最初に何らかの姿勢変更は行うことは有効と考えられた。

入院患者の経口摂取再開時の嚥下機能評価

夏休みに入りましたので、再開しました。 日本耳鼻咽喉科学会会報 に「 入院患者の経口摂取再開時の嚥下機能評価 ―経口摂取可否の予測因子の検討を中心に― 」 (高柳博久, 遠藤朝則, 中山次久, 加藤孝邦 116(6): 695-702, 2013.)が掲載されている。 要旨は「 急性期病院において, 入院患者の絶食後の経口摂取再開が可能か不可能かは非常に関心の高い問題である. 今回われわれは経口摂取再開時の嚥下機能評価の中で, 退院時に経口摂取可能か否かに関与する予測因子について検討した. 対象は2010年1月~12月までの1年間に入院した患者で, その間に絶食していて経口摂取再開時に嚥下機能評価した186例である. 平均年齢80.9歳(50~99歳), 観察期間は初回診察日から退院までとし, 平均日数は32.6日(3~206日)であった. 検討項目は 年齢, 性別, 食欲(患者自身の経口摂取の希望の有無), 咽頭拘扼反射の有無, 舌運動, 反復唾液飲みテスト, 指示従命, 嚥下内視鏡検査:水飲みテスト前の咽喉頭の唾液の貯留, 喉頭の感覚, 水飲みテストの誤嚥の有無 である. 嚥下機能評価後の入院中死亡例は評価が難しく除外して検討した. 経口摂取可能群は112例(60.2%), 不可能群は54例(29.0%), 死亡例20例(10.8%)であった. 有意差を認めたものは 年齢, 性別, 食欲, 舌運動, 反復唾液飲みテスト, 指示従命, 嚥下内視鏡検査(水飲みテスト)(P<0.05) であった. 経口摂取可否の予測因子が分かれば経口摂取再開時の嚥下機能評価に非常に有用であり, 嚥下障害と誤嚥性肺炎発症の可能性が示唆されていても対応を十分に取れば, 入院中の経口摂取の可否に対し影響を低下させる可能性が示唆された. 」と述べている。 本文では、咽頭絞扼反射以外で有意差が認められており、それぞれ予測因子について考察が述べられている。 RSSTについて、本来嚥下障害のスクリーニングであるが、経口摂取の可否の判断にも有用な可能性があると述べている。 私自身は、嚥下障害=経口摂取の可否の判断材料と考えていたため、経口摂取判断としてのRSSTをもっと考える必要があると思われた。...

誤嚥性肺炎の臨床的特徴

Medical Technology に「 誤嚥性肺炎 の臨床的特徴 」(青木洋介 40: 1094-1097, 2012.)が掲載されている。  要旨は「誤嚥性肺炎は, 市中発症と院内発症とで原因菌が異なる. 前者においては一般の市中肺炎とは異なり口腔内連鎖球菌属が主体となるが, 後者では通常の院内肺炎と同じくグラム陰性菌が主体となる. 誤嚥性肺炎の多くは不顕性誤嚥により発症するため , 正しい診断のためには発症のリスク因子を認識しておくことが必要である. 「はじめに」誤嚥性肺炎という診断名を日常臨床で耳にする機会は非常に多い. 高齢患者が多いことがその理由の1つであると思われるが, 「意識障害(変調)」+「肺炎」を認める患者が誤嚥性肺炎であるとは限らない. たとえば, レジオネラなど重症市中肺炎に起因する意識障害をきたす病態を誤嚥性肺炎と診断することを避けるには, 誤嚥性肺炎を一定の尺度で正しく診断できる必要がある. 「誤嚥性肺炎とは」肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)やインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)のような気道親和性が高い病原菌による肺炎は狭義の市中肺炎とよばれ , これらの病原菌が呼吸とともに下気道に吸引されることで, 健常成人においても肺炎が成立する . 」と述べている。 これまでの研究より、口腔内の不衛生により、口腔内連鎖球菌や口腔内偏性嫌気性菌が増殖することが分かっている。口腔内連鎖球菌を誤嚥することにより嚥下性肺炎を誘発する可能性が高齢者になるほど高くなる。嚥下性肺炎予防の一つとして唾液分泌能向上が考えられる。その理由として、文中にもあるように唾液にはanti-microbial作用があるためである。 文中でも、長期療養患者の誤嚥性肺炎予防には口腔ケアが推奨されているが、本文を読み嚥下性肺炎予防になぜ口腔ケアが重要なのか微生物学的知見より考察することが重要と思われた。  

高齢者に対する呼気筋トレーニングが随意的咳嗽力に及ぼす効果

理学療法科学に「 ケアハウスの高齢者に対する呼気筋トレーニングが随意的咳嗽力に及ぼす効果 」( 山下弘二, 柿崎彩加, 26: 777-780, 2011.)が掲載されている。 要旨は「本研究では, 施設入居中の高齢者に対し EMST(Expiratory muscles strength training) プログラムが随意的咳嗽力に及ぼす効果について明らかにすることを目的とした. 〔対象〕対象者はケアハウスに入居している高齢者21名とし, EMSTプログラムを行ったEMST群10名(年齢80.6±8.6歳)と対照群11名(年齢76.7±9.3歳)に分けた. 〔方法〕EMSTのプロトコールは, 呼気筋訓練器( Threshold(R)PEP )を用い, 最大呼気圧の50%の圧力に設定し, 15回2セットを1日に2回, 5週間実施した. 測定項目は最大呼気圧, 最大吸気圧, 努力性肺活量, 一秒量, 最大呼気流速, 最大咳嗽流速とした. 〔結果〕5週間後に, 対照群は全ての測定項目で有意な変化は認められなかったが, EMST群は 最大呼気圧, 最大呼気流速, 最大咳嗽流速に有意な増加が認められた . 〔結語〕本研究により施設入所の高齢者に対するEMSTは, 呼気筋力が大きく関与している随意的咳嗽力を高めるための効果的なプログラムであることが示唆された. 」と述べられている。 以前、吹き矢トレーニングによる呼気筋トレーニングについて紹介したが、今回は随意的咳嗽力向上のためにThreshold PEPを使用しEMSTを実施している。 嚥下性肺炎予防のためにEMSTは有効と考えられるが、今回対象群、コントロール群ともMNAが平均して25点以上もあり、十分な栄養状態で実施されている。そのため最大呼気圧の50%と15回2セットという高い負荷で実施可能と思われた。そのため、嚥下性肺炎予防のメニューとして有効と考えられた。 急性期の嚥下性肺炎発症後の摂食・嚥下リハとしてEMSTは有効かリサーチしていきたい。

新たな認知症施策の方向性

PROGRESS IN MEDICINE に「 厚生労働省が呈示した新たな認知症施策の方向性 」 (山口晴保 , 山口智晴 32: 2591-2596, 2012.)が掲載されている。   「はじめに」2012年6月18日に『今後の認知症施策の方向性について』という報告書が, 厚生労働省認知症施策検討プロジェクトチームから公表された. この報告書は, 藤田厚生労働大臣政務官を主査(チーフ)とし, 医政局, 社会・援護局, 老健局, 保険局の4局長と, 障害保健福祉部長を副査とする省内横断的なプロジェクトチームで, 過去10年間の認知症施策を再検証し, 今後目指すべき基本目標とその実現のための認知症施策の方向性 について呈示したものである. 一般病院の医療は医政局, 精神科病院は障害保健福祉部, 介護保険を担当して認知症対策部門があるのは老健局, 医療保険が保険局という縦割り行政の中で, 省内横断的なプロジェクトチームで認知症施策を議論したのは素晴らしいことだが, 一部の専門家・実践者などへのヒアリングで議論がまとめられたようで, 省内各部局の実務者からの意見や実績を基盤とした施策ではなく, 理想論のようなトップダウンの施策の色彩が強い. 」と述べられている。   認知症患者が2025年には470万人になるとの報告があり、認知症に対する施策の方向性が求められる中で、2013年より 認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン) が策定された。 今後は、初期対応を充実させることで、Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia(BPSD)の予防や「身近型認知症疾患医療センター」を設置し、在宅生活のサポートを充実させていく予定である。 これまでは、高齢化社会の対応でゴールドプランが策定されたが、今後は高齢化に伴う症状別の対策を立てることが重要と考えられた。また、認知症に対してセラピストの関わりも重要と思われ、更なる認知症改善に有効なリハビリテーションの開発、実施が望まれると思われた。